成人看護学実習Ⅰ胃がん・肺がん
周術期を、画面で最初から読む
印刷の学習ノートと同じ中身を、見出しごとに追える形にしている。数値はノートの出典にあるものだけ。授業事例の吸引圧や鎮痛の設定は、その事例の値で、病棟の標準ではない。食道・肝胆膵は範囲外。関連図の清書と、六つの計画を書き込む用紙は別紙。
出典は各章末の文献と講義。この画面はノートの再配置であり、新しい基準値は足していない。
速習
六つは同時に動く
手術で、切る・血が出る・同じ体位・管が入る・咳と腸が止まる
↓
痛みが止まらないと、咳と離床が止まる
↓ 同時
痰が残る
水が血管の外へ出る
足に血栓ができる
↓
腸は48〜72時間止まりうる
熱は1〜2日では感染と限らない
課題に直結する見方は、一つの数値で病名を決めないこと。目次から各章へ進む。
ゼロから
初めて出会う語から入る
ここが入口。章の本文は、この語が分かってから読む。ハブの目次は復習用で、最初のページではない。
入門 用語 1
周術期(しゅうじゅつき)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
手術の前、最中、あとを、別々の日ではなく一連の経過として見ること。
別名周手術期と書く文献もある。
なぜ前の呼吸機能が悪い人は、あとで咳ができない。前を見ないと、あとの異常が読めない。
└ 図 前と後
図 前と後
前手術の当日だけを看護の範囲にする
後検査の数値と、帰室後の数値を同じ人の変化として並べる
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み前で基準を取り、中で侵襲が入り、あとでその侵襲に体が応える。見る場所は日で変わるが、問い(この人の何が落ちるか)は同じ。
課題での書き方術前・術中・術後を、一つの経過として書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。当日のケアだけを覚えれば足りる、と思いやすい。
NG。術後の観察項目だけを暗記する。
正しい見方。術前の値があとでどう動くか、まで書く。
入門 用語 2
胃(い)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
食べたものを一時ためて、酸と酵素でどろどろにし、少しずつ十二指腸へ送り出す臓器。
別名別名は特に置かない。噴門は入口、幽門は出口。
なぜここを切ると、ためる・酸を出す・少しずつ出す、の三つが同時に欠ける。食後の症状は、この欠落から出る。
└ 図 前と後
図 前と後
前胃は消化を全部終える袋
後胃は途中の調整役で、吸収の本番は腸
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み壁は粘膜から漿膜まで層になっている。がんがどの層まで達したかで、切る範囲と、あとで見る合併症が変わる。
課題での書き方入口・出口・層の順で場所を言い、その場所を切ると何が消えるかを続ける。
よくある誤解
なぜ起きるか。胃を取れば栄養の吸収も全部なくなる、と思いやすい。
NG。胃切除=吸収不能、と書く。
正しい見方。吸収の場は小腸。胃が失うのは貯留と調整。
入門 用語 3
胃壁(いへき)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
胃の壁を、内側の粘膜から外側の漿膜まで重ねた層として見ること。
別名深達度の土台。T因子と対で覚える。
なぜ層を飛ばして『進行している』と言うと、切る範囲も、術後にどの腔が漏れるかも決まらない。
└ 図 前と後
図 前と後
前がんがある、で止める
後粘膜内か、筋を越えたか、漿膜の外まで出たか
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み内側に近いほど、内視鏡で取れる余地がある。外側まで出ると、隣の膵や脈管に触れる。
課題での書き方層の名前を内側から一つ言い、その層を越えると何が見えるかを続ける。
よくある誤解
なぜ起きるか。早期と進行を、大きさだけだと思う。
NG。腫瘍の直径で早期と進行を分ける。
正しい見方。早期か進行かは、壁の深さで分ける。
入門 用語 4
幽門側胃切除(ゆうもんそくいせつじょ)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
出口側の胃を、がんの位置に合わせて切り取る術式。
別名DG と略す文献がある。このノートでは術式名で書く。
なぜ残る胃が小さいほど、ためて少しずつ出す働きが落ち、食後の症状が出やすい。
└ 図 前と後
図 前と後
前胃を全部取ることと同じ
後出口側を切り、残った胃と腸のつなぎ方を別に選ぶ
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み切除範囲と再建は別の決定である。同じ幽門側切除でも、ビルロートⅠ、Ⅱ、ルーワイで食後の通り方が違う。
課題での書き方どこを切ったか、何とつないだか、の二つを分けて書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。術式名だけ覚えて、つなぎ方を省略する。
NG。幽門側切除、で合併症まで言い切る。
正しい見方。切った範囲と、再建の名前を両方書く。
入門 用語 5
再建(さいけん)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
切ったあとの食べ物の通り道を、残った胃と腸でつなぎ直すこと。
別名ビルロートⅠ、ビルロートⅡ、ルーワイが主な三つ。
なぜつなぎ方で、胆汁が逆流するか、食べ物が一気に落ちるかが変わる。食後の嘔吐の種類はここから分かれる。
└ 図 前と後
図 前と後
前切れば終わり
後通り道を選び、その通り道に特有の症状を術後に見る
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組みⅠは残胃と十二指腸を直接つなぐ。Ⅱは十二指腸の端を閉じ、空腸へつなぐ。ルーワイは胆汁の道と食べ物の道を分ける。
課題での書き方再建名を言い、食後に何が逆流しうるかを一つ続ける。
よくある誤解
なぜ起きるか。三つの再建を、傷の大きさの違いだと思う。
NG。創が小さいほうを選ぶ、と書く。
正しい見方。違うのは食べ物と胆汁の通り道。
入門 用語 6
ダンピング症候群(だんぴんぐしょうこうぐん)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
胃を切ったあと、食べ物が腸へ落ちる速さが変わって出る、食後の一連の症状。
別名早期と後期を対で覚える。
なぜ同じ『食後に気持ちが悪い』でも、30分と2時間では足すものが逆になる。
└ 図 前と後
図 前と後
前食後の不調を全部、低血糖と呼ぶ
後時刻で、一気に落ちた症状と、あとから血糖が下がる症状を分ける
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み食後すぐは、濃いものが腸へ落ちて水分が引かれ、動悸や下痢が出る。2〜3時間後は、インスリンが残って血糖が下がる。
課題での書き方時刻を先に書き、早期なら糖を足さない、後期なら血糖を見てから糖、と続ける。
よくある誤解
なぜ起きるか。汗が出たら糖、で一種類だと思う。
NG。食後30分の発汗に糖分を足す。
正しい見方。30分前後は早期。糖や汁を足すと強くなる。
入門 用語 7
肺葉(はいよう)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
肺を分ける大きな区画。右は上・中・下の3葉、左は上・下の2葉。
別名区域はその下の区画。このノートでは葉を先に使う。
なぜどの葉を取ったかで、残る肺の広さと、ドレーンを置く側が決まる。
└ 図 前と後
図 前と後
前左右は同じ形
後右3、左2。切った側と残した側を分けて言う
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み空気の通り道のいちばん端でガス交換が行われる。葉を取ると、その範囲の交換が消える。
課題での書き方左右と葉の名前を言い、残った肺で換気することを続ける。
よくある誤解
なぜ起きるか。肺を片方取っても、もう片方が同じだけ働く、と思う。
NG。残った肺は術前と同じ、と書く。
正しい見方。残った肺に、痰と血流と水が一気に集まる。
入門 用語 8
片肺換気(かたはいかんき)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
手術中、片側の肺だけに空気を送り、もう片側をしぼませて操作するやり方。
別名分離肺換気とも言う。
なぜしぼませた側は、術後に自分ではすぐ膨らまない。咳とドレーンが、その代わりになる。
└ 図 前と後
図 前と後
前両方の肺が普通に呼吸している
後操作側をしぼませ、反対側だけで換気する
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み挿管の管で左右を分け、終わったあとしぼんだ側の空気と痰の抜けを見る。痛みで咳ができないと、その側に痰が残る。
課題での書き方どの側をしぼませたか、帰室後に咳が1回できるか、を書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。手術が終われば両方すぐ元通り、と思う。
NG。SpO2 が低いのを、貧血のせいだけにする。
正しい見方。しぼませた側の再膨張と、痰の排出を先に置く。
入門 用語 9
胸腔ドレーン(きょうくうどれーん)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
肺の外の腔に管を入れ、空気や液体を外へ出すもの。
別名トロッカーカテーテルと呼ばれる管もある。吸引圧は施設と事例で違う。
なぜ量だけ見ると、詰まって出なくなったのを『良くなった』と読む。
└ 図 前と後
図 前と後
前排液の量だけを記録する
後量、水面の揺れ、気泡を同じ時刻に見る
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み水面が呼吸で動けば管は通っている。揺れが止まって量もゼロなら詰まり。気泡が続くのは肺から空気が漏れているサインで、血圧が静かなら急いで抜く状況ではない。
課題での書き方量・揺れ・気泡の三つを書いてから、回復か詰まりかを言う。
よくある誤解
なぜ起きるか。量が増えないのを回復と読む。
NG。揺れが止まったのに『排液が減って改善』と書く。
正しい見方。揺れが止まって量も出ないのは、詰まり。
入門 用語 10
無気肺(むきはい)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
痰や浅い呼吸で、肺の一部が潰れて空気が入らない状態。
別名肺がしぼむ、とは限らない。区域単位でも起きる。
なぜ痛みで咳ができないと、挿管で落ちた線毛の代わりが無い。痰が残り、熱と酸素低下の原因になる。
└ 図 前と後
図 前と後
前SpO2 が下がれば無気肺
後咳が1回できるか、痰の音、気泡と血圧を先に分ける
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組みドレーンの気泡や、突然の胸痛と足の左右差は、無気肺ではない。痰が残り、熱が続き、気泡が無いときに無気肺から肺炎へ進む。
課題での書き方咳・体位・痰を先に書き、他の息苦しさと一行で区別する。
よくある誤解
なぜ起きるか。酸素が低い原因を一つに決める。
NG。SpO2 低下=無気肺、で酸素だけを足す。
正しい見方。気泡、血圧、足の左右差を同じ時刻に置いてから名前を決める。
入門 用語 11
サードスペース(さーどすぺーす)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
手術のあと、水が血管の中から組織のすき間へ一時的に出ること。
別名細胞外液の移動。第三腔とも言う。
なぜ血管の中の水が減るので尿は減る。そこに水を足すと、戻る時期に肺へあふれる。
└ 図 前と後
図 前と後
前尿が少ない=体の水が足りない
後出ていく時期と、戻る時期を分ける
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み出ているあいだは脈が先に上がり、血圧はまだ保たれることがある。戻る時期は尿が増え、泡の痰と湿った音が出る。肺を切った人では、戻った水の行き場が狭い。
課題での書き方尿が少ないとき、出血・管の屈曲・この移動のどれかを先に書いてから、輸液に触れる。
よくある誤解
なぜ起きるか。少ない尿を見て輸液を増やす。
NG。尿量だけで輸液速度を上げる。
正しい見方。脈、排液の色、呼吸音を同じ時刻に置く。
入門 用語 12
乏尿(ぼうにょう)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
体重あたりの尿が、目安の 0.5mL/kg/時 を下回っている状態。
別名乏尿と無尿は量で違う。無尿はさらに少ない。
なぜ原因が出血なのか、水の移動なのか、腎臓なのかで、足すか止めるかが逆になる。
└ 図 前と後
図 前と後
前尿が少ないことだけを伝える
後1時間の量を体重で割り、脈と排液と一緒に言う
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み目安は 0.5〜1.0mL/kg/時。50kg なら1時間に 25〜50mL がこの幅。幅を下回っても、先に見るのは輸液の速度だけではない。
課題での書き方体重、1時間尿量、割り算、同時に見た脈と排液、の順で書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。少ない=脱水、で終える。
NG。尿が少ないので輸液を増やした、だけ書く。
正しい見方。0.5mL/kg/時との差を示してから、出血か移動かを書く。
入門 用語 13
術後疼痛(じゅつごとうつう)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
創、管、神経、お腹の中のどこから出ているかを分けて扱う痛み。
別名侵害受容性、神経障害性、内臓痛に分けて見る。
なぜ痛みはつらいだけではない。咳と離床を止めるので、無気肺と血栓の入口になる。
└ 図 前と後
図 前と後
前NRS の数字だけで薬を足す
後場所、感じ、熱と排液が一緒かを先に置く
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み創を押さえると楽なズキズキは、動く前に薬を合わせる。ジンジンは神経。お腹が硬く熱と排液が変わっていれば、薬で隠す前に報告する。
課題での書き方七つの聞き方のあと、種類を一つ名づけてから薬に触れる。
よくある誤解
なぜ起きるか。痛い、は一種類だと思う。
NG。NRS が低ければ痛みは軽い、とする。
正しい見方。顔をしかめて咳をしないなら、数字が低くても痛みは強い。
入門 用語 14
硬膜外鎮痛(こうまくがいちんつう)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
背骨の硬膜の外に細い管を入れ、そこから薬を流して痛みを抑える方法。
別名PCA と組み合わせることがある。濃度と流量は指示を写す。
なぜ効いている範囲と、足の動きを分けないと、神経の圧迫を薬のしびれと読む。
└ 図 前と後
図 前と後
前足がしびれれば薬が効いている
後効く皮膚の帯と、足首を上げる動きを別に見る
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み薬が広いと血圧が下がり、呼吸が浅くなる。抜く日は、血を固まりにくくする薬の時刻と重なっていないかを先に確認する。
課題での書き方刺入部、効く範囲、血圧、足の動き、の順で書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。しびれを全部、鎮痛の効果にする。
NG。足が動かなくても様子を見る。
正しい見方。足首が上がるか、手の握りと比べて、圧迫と薬を分ける。
入門 用語 15
縫合不全(ほうごうふぜん)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
つないだ場所がふさがらず、中身が外の腔へ漏れること。
別名リークとも言う。胃では消化液、肺では空気や痰。
なぜ食事を始めたあとに出やすい。漏れた液は感染と出血の両方を呼ぶ。
└ 図 前と後
図 前と後
前熱が出れば感染
後食事のあと、限られた腹痛、排液に胆汁や食べ物
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み胃では経口を止めて報告する。肺では気泡が減らず膿の痰なら、気管支の断端側を疑う。食事のあと白い排液は乳びで、膿とは色の出方が違う。
課題での書き方いつ食べ始めて、どこが痛み、排液に何が混じったか、を書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。術後の熱を全部、縫合不全にする。
NG。1日目の熱で縫合不全と書く。
正しい見方。1〜2日で創がきれいなら吸収熱もありうる。食事のあとと3日目以降で見方を変える。
入門 用語 16
肺塞栓(はいそくせん)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
足などにできた血栓が流れ、肺の血管をふさぐこと。
別名深部静脈血栓から飛ぶ、と対で覚える。
なぜできるのは寝ているあいだ。飛ぶのは、初めて立つ、歩く、排泄のとき。
└ 図 前と後
図 前と後
前息苦しさは全部、無気肺
後突然か、だんだんか。足に左右差があるか
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み突然の息苦しさ、胸の痛み、頻脈。痰でだんだん苦しくなる無気肺とは、始まり方で分ける。その場で座らせるか寝かせ、歩かせない。
課題での書き方突然かどうかを先に書き、足の周径に触れてから行動を書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。歩かせて様子を見る。
NG。苦しい人を歩かせて呼吸を良くしようとする。
正しい見方。歩かせない。座らせるか寝かせて人を呼ぶ。
入門 用語 17
イレウス(いれうす)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
腸の動きが止まる、または通り道がふさがって、内容が先へ進まないこと。
別名麻痺性と機械性を対で覚える。
なぜ術後48〜72時間、音が無いのは手術の反応でもある。それを越えて名前が変わる。
└ 図 前と後
図 前と後
前音が無ければすぐ異常
後時刻、痛みが波打つか、音が高いか
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み生理的な止まりは鈍い痛みで音がほぼ無い。ふさがると痛みが波打ち、音が高く金属のよう。後者は歩かせて様子を見ない。
課題での書き方術後何時間か、痛みの性質、音、を書いてから名前を付ける。
よくある誤解
なぜ起きるか。全部を麻痺性イレウスと呼ぶ。
NG。金属のような音を、歩きで様子を見る。
正しい見方。金属音で波打つ痛みは、すぐ報告する。
入門 用語 18
吸収熱(きゅうしゅうねつ)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
傷んだ組織が吸収される過程で、術後1〜2日に出ることがある熱。
別名無気肺や感染の熱と、時期で分ける。
なぜ1日目の熱を感染と決めると、創がきれいな人に不要な判断が入る。3日を過ぎてからが感染の見方に変わる。
└ 図 前と後
図 前と後
前熱=感染
後術後日数と、創・排液が前日と同じか
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み創がきれいで排液が前日と同じなら、吸収の反応でもある。赤みも1〜3日なら治っている途中でもある。3日を過ぎて膿やにおいが増えれば感染として動く。
課題での書き方術後何日か、創の外見、排液の前日との差、を書いてから感染と言う。
よくある誤解
なぜ起きるか。熱が出た日に感染と書く。
NG。1日目の熱で縫合不全や膿胸と書く。
正しい見方。1〜2日は吸収熱もありうる。3日目以降と食事のあとで見方を変える。
入門 用語 19
早期離床(そうきりしょう)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
手術のあと、床に伏したままにせず、座って立つことを早い時期に始めること。
別名歩行開始と対で覚える。止める基準は別に持つ。
なぜ寝たままだと痰が残り、足に血栓ができ、腸が動かない。立つこと自体が、その三つへのケアになる。
└ 図 前と後
図 前と後
前頭から起こして歩かせる
後足を先に出し、頭は段階で上げ、各段階で血圧を見る
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み立つと血液の数百mLが下半身へ移る。頭だけ先に起こすと脳への血流が落ちる。足に左右差や痛みがあれば、その離床は始めない。
課題での書き方目的、起こし方、中止の基準、の順で書く。
よくある誤解
なぜ起きるか。歩ければ成功、で観察を終える。
NG。めまいがあっても励まして歩かせる。
正しい見方。冷汗、息苦しさ、足の左右差があれば、その場で止める。
入門 用語 20
報告の型(ほうこくのかた)とは、
ポイント 1ひとことで言うと
今の値ではなく、術前や直前との差を、見る順に沿って短く伝えること。
別名授業では ISBAR の枠で練習している。
なぜ数値の羅列は、何が変わったかが相手に残らない。差と、同時に見たサインが判断になる。
└ 図 前と後
図 前と後
前SpO2 92% だけを伝える
後術前はいくつで、今いくつで、咳と排液はどうか
ポイント 2仕組みと、課題での書き方
仕組み見る順は気道と呼吸、循環、意識と痛み、刺入部。ドレーンの袋に触れたあとは手を洗い、刺入部には触れる前にも洗う。
課題での書き方術前値、今の値、同時に見た一つ、してほしいこと、の順で話す。
よくある誤解
なぜ起きるか。異常値を一つだけ読む。
NG。尿が少ない、だけで電話する。
正しい見方。1時間量、体重あたり、脈、排液の色を同じ文に入れる。
第1章学習ノート
Ⅰ 胃
この章で見ること
なぜこの章か。胃は、食べ物をためて酸で溶かし、少しずつ十二指腸へ出す。がんが壁のどこまで達したかで切り方が変わり、つなぎ方で食後の症状が変わる。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅰ臓器別の学習 1 学習範囲の確認
1 学ぶ疾患
受け持つ可能性のある疾患は、胃がんと肺がんである。どちらの患者を受け持っても動けるように、両方を同じ深さで学ぶ[1]。
学ぶ項目は、臓器の構造と機能、主要な血管と神経、周辺臓器との位置関係、術式・再建法、術後合併症である。表の合併症は代表的なものなので、それ以外の合併症も学ぶ[1]。
受け持ちで挙がっている術式
| 臓器 | 術式 |
|---|---|
| 胃 | 胃全摘出術、胃部分切除術、幽門側胃切除術、噴門側胃切除術、幽門温存(保存)胃切除術 |
| 肺 | 肺葉切除術、肺部分(楔状)切除術、肺区域切除術 |
アプローチは、開胸術、胸腔鏡補助下開胸術、開腹術、腹腔鏡下切除術、ロボット支援下手術が挙がっている。胃がん切除後の再建法は、ビルロートⅠ法、ビルロートⅡ法、ルーワイ法である[2]。
周術期の流れ
| 時期 | 場 | 主な看護 |
|---|---|---|
| 術前(術前1〜2日) | 術前外来(検査)、術前入院 | 意思決定支援、リスク評価と術前準備、多職種連携 |
| 手術当日 | 手術室 | 全身状態の管理、合併症予防、心理的支援 |
| 術直後〜2日目 | 回復室・ICU・病棟 | 術後障害期。合併症の観察、離床援助 |
| 術後3〜10日 | 病棟 | 転換期〜退院。創傷・ドレーン管理、セルフケア支援 |
| 退院後 | 術後外来 | 生活の再構築、後遺症への対処 |
出典:[2] p3–4
参考文献
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅰ.臓器別の学習」
- 周術期の学習範囲(術式、アプローチ、再建法、時期の区分)
Ⅰ2 胃がん(1)臓器の構造と機能
胃の位置と区分
胃は食道から送られた食物をため、胃液を分泌し、蠕動運動でかき混ぜて、少しずつ十二指腸へ送り出す。噴門で食道とつながり、幽門で十二指腸につながる、約1,500mLの内容をもつ袋状の臓器である[1]。
上から噴門部、胃底部(穹窿部)、胃体部、幽門部(前庭部)に分ける。前壁と後壁、小彎と大彎にも分け、胃の中ほどで折れ曲がった部分を胃角という[1]。
胃の内側、とくに大彎側には多くのひだがあり、胃の容積を調節している[1]。がんの位置は「胃の上部・中部・下部」と「小彎・大彎・前壁・後壁」の組み合わせで記録されるので、カルテの記載をこの区分で読む。
胃壁の構造
胃壁は内側から、粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜で構成される。がん情報サービスでは、粘膜、粘膜下組織、固有筋層、漿膜下組織、漿膜の順と説明している[1][2]。
筋層は内側から斜走筋、輪状筋、縦走筋の3層で、消化管のなかで最も厚い。輪状筋は幽門部で幽門括約筋になる[1]。
食道は胃と違い漿膜がない。食道下部には機能的な括約筋(下部食道括約筋、LES)があり、胃の内容が食道へ逆流するのを防いでいる[1]。噴門を切除すると、この逆流防止の働きが失われる。
胃腺と細胞の働き
| 細胞 | 分泌するもの | 切除後に起こること |
|---|---|---|
| 表層細胞・頸部細胞 | 粘液。胃粘膜を食物や薬の刺激から守る | — |
| 壁細胞 | 塩酸(胃酸)、内因子 | 鉄の吸収低下、内因子がなくなるとビタミンB12の吸収低下 |
| 主細胞 | ペプシノゲン(胃酸でペプシンになり、たんぱく質を分解) | たんぱく質の消化の一部が失われる |
| G細胞(幽門腺) | ガストリン(胃酸の分泌を促す) | 幽門側切除で減る |
出典:[1]。切除後の変化は[3][4]
胃の粘膜は円柱上皮で、噴門腺、体部腺(胃底腺)、幽門腺に分かれる。胃内は強い酸性なので、食物中の細菌の多くはここで殺菌される[1]。
胃液分泌の調節
- 脳相:食物を見る、におう、味わうといった刺激が大脳から迷走神経を通って胃酸の分泌を促す。
- 胃相:食物が胃の粘膜を直接刺激し、ガストリンが出る。
- 腸相:十二指腸から出るセクレチンなどによって調節される。
出典:[1]
壁細胞からの塩酸の分泌は、ヒスタミン、ガストリン、アセチルコリンで刺激される。H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、この分泌を抑える薬である[1]。
消化と吸収の流れ
糖質は唾液と膵液のアミラーゼ、小腸の酵素でブドウ糖などに分解されて吸収される。たんぱく質は胃のペプシンで一部が消化され、大部分は膵液のトリプシンなどでアミノ酸まで分解される[1]。
脂質は膵液のリパーゼで分解され、胆汁酸の助けで空腸から吸収される。脂肪酸はカイロミクロンになってリンパ系から吸収され、胸管を通って静脈に入る[1]。この経路は、肺の手術で胸管を傷つけたときの乳び胸(Ⅰ-3)の理解につながる。
消化管に流れ込む水分は、食事・唾液・胃液・胆汁・膵液・腸液を合わせて1日約9Lになり、十二指腸・空腸・回腸・大腸で吸収される[1]。術後に嘔吐やドレーン排液、胃管からの排液が多いと、水分と電解質が大きく失われる。
消化管ホルモン
| ホルモン | 分泌部位 | 主な作用 |
|---|---|---|
| ガストリン | 胃前庭部のG細胞 | 胃酸の分泌を促す |
| ソマトスタチン | 胃のD細胞など | 胃酸の分泌を抑える |
| セクレチン | 十二指腸粘膜 | 膵液の分泌を促す |
| CCK-PZ | 十二指腸粘膜 | 胆嚢を収縮させ、膵酵素の分泌を促す |
| モチリン | 小腸粘膜 | 消化管の運動を刺激する |
出典:[1] 表10-1
参考文献
- [内]第10章「消化管・腹膜疾患」総論 1.構造(b.胃)、2.機能 pp.293–299、表10-1
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がんについて」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/about.html
- 同「胃がん 療養」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/follow_up.html
- [消]第5章 C-4 胃がん「胃切除後症候群」p.163
Ⅰ2 胃がん(2)主要血管と神経・リンパ・周辺臓器
動脈
胃・十二指腸は腹腔動脈から、小腸は上腸間膜動脈から、大腸は上・下腸間膜動脈から血液を受ける[1]。胃には腹腔動脈から枝分かれした多くの動脈が入る[2]。
| 動脈 | どこから出るか | 胃のどこへ |
|---|---|---|
| 左胃動脈 | 腹腔動脈 | 小彎の上部 |
| 右胃動脈 | 総肝動脈→固有肝動脈の側 | 小彎の下部 |
| 右胃大網動脈 | 総肝動脈→胃十二指腸動脈 | 大彎の下部 |
| 左胃大網動脈 | 脾動脈 | 大彎の上部 |
| 短胃動脈 | 脾動脈 | 胃底部 |
| 後胃動脈 | 脾動脈 | 胃の後壁上部 |
出典:[2]。小彎・大彎との対応は同じ図の配置による
胃の手術では、これらの動脈を切り離す。残す胃にどの動脈からの血流が残るかで、切除範囲が決まる。
静脈
胃・十二指腸・小腸・大腸からの静脈は、ほとんどが門脈に流れ込み、肝臓へ運ばれて栄養分が代謝される[1][2]。術前の造影CTでは、胃の動脈と静脈を立体画像にでき、手術のときに役立つ[3]。
神経
胃は迷走神経(副交感神経)で動きと分泌が促される。脳相の胃酸分泌も迷走神経を介する[1]。
胃切除で迷走神経の肝枝を切ると胆汁がうっ滞し、急性胆嚢炎を起こすことがある。予防のために、胃切除のときに胆嚢を一緒に摘出することもある[3]。
迷走神経の肝枝(前幹)や腹腔枝(後幹)を残すと、胆石症が減る、下痢が少ない、体重の回復が早い、といった報告がある[4]。手術記録で、迷走神経を温存したか、胆嚢を摘出したかを確かめる。
リンパの流れと郭清
胃のリンパ液は胃の周りのリンパ節を通り、大動脈の周りを上って、左の鎖骨の裏で太い静脈に入る。リンパ節は胃や動脈の周りにあり、早い段階で転移が起こるので、手術ではリンパ節を取り除く[2]。
胃と胃の周りのリンパ節(所属リンパ節)を摘出することをリンパ節郭清という[3]。胃のすぐそばと少し離れたリンパ節を取るD2郭清が標準で、転移の可能性が低い早期がんではD1またはD1+にとどめる[5]。
ガイドラインでは、cN(+)またはT2以深はD2、cT1N0はD1またはD1+とされる。D2では膵臓の上縁(総肝動脈・脾動脈・腹腔動脈の周り)のリンパ節まで取る[4]。膵臓のすぐそばを操作するので、術後に膵液漏が起こりうる[3][5]。
転移と周辺臓器
胃の周りには、肝臓、横隔膜、膵臓、胆嚢、十二指腸、横行結腸がある。がんが広がっていれば、胃と一緒にその一部を切除することがある[5]。
| 転移の名前 | どこへの転移か |
|---|---|
| ウィルヒョウ(Virchow)転移 | 左鎖骨上窩リンパ節。進行すると触れることがある |
| クルケンベルグ(Krukenberg)腫瘍 | 卵巣 |
| シュニッツラー(Schnitzler)転移 | ダグラス窩 |
| 腹膜播種 | 漿膜を越えたがん細胞が腹腔に散らばる。がん性腹膜炎、腹水 |
出典:[1][3][6]
領域リンパ節以外の転移(M1)には、肝転移、腹膜転移、肺転移、骨転移などが含まれる[3]。高度の肝転移や、腫瘍による総胆管の閉塞で黄疸が出ることもある[3]。
参考文献
- [内]第10章 総論「消化管の血管」図10-8、「胃癌」pp.296, 330
- 日本胃癌学会編『患者さんのための胃がん治療ガイドライン』(金原出版)第1章 図2 胃の動脈・図3 胃周囲のリンパ節 https://www.kanehara-shuppan.co.jp/_data/ebooks/20467T/pageindices/index3.html
- [消]第5章 C-4 胃がん pp.158–162
- 日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン 第6版」Ⅱ章A 手術 https://www.jgca.jp/guideline/sixth/002_01.html
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
- 同「胃がんについて」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/about.html
Ⅰ2 胃がん(3)原因・病型・病期
疫学と原因
2019年の人口動態統計では、胃がんの罹患数は大腸がん、肺がんに次いで第3位、死亡者数も肺がん、大腸がんに次いで第3位である。男女比は約2:1で、高齢者に多い[1]。
発生部位は胃中部・胃下部に多く、胃上部は比較的少ない。組織型はほとんどが腺がんである[1]。わが国は世界的にみても胃がんの多い国だが、死亡率は減少傾向にある[2]。
多量の塩分摂取、喫煙、ヘリコバクター・ピロリ感染などが発生に関連する[1]。慢性胃炎へのピロリ菌の除菌治療には健康保険が適用されている[2]。
早期胃がんと進行胃がん
がんの浸潤が粘膜内または粘膜下層までにとどまるものを早期胃がんといい、リンパ節転移の有無は問わない。固有筋層より深く浸潤したものを進行胃がんという[2]。
病理組織では腺がんが大部分で、分化型と未分化型(低分化型など)に分かれる。一般に低分化型のほうが予後がわるい[2]。
肉眼型分類(胃癌取扱い規約 第15版)
| 型 | 特徴 |
|---|---|
| 0型(表在型) | がんが粘膜下組織までにとどまる場合に多くみられる |
| 1型(腫瘤型) | 明らかに隆起し、周りの粘膜との境界がはっきりしている |
| 2型(潰瘍限局型) | 潰瘍をつくり、周りが堤防のように盛り上がる。境界ははっきりしている |
| 3型(潰瘍浸潤型) | 潰瘍をつくり、周りの盛り上がりの一部が崩れ、境界がはっきりしない |
| 4型(びまん浸潤型) | 潰瘍も盛り上がりもはっきりせず、胃壁が厚く硬くなる。スキルス胃がんとも呼ばれる |
| 5型(分類不能) | 0〜4型のどれにも分類しにくい |
出典:[1] p.156–157、[2] 図10-62
0型が最も予後良好で、1型・2型は3型・4型に比べて予後がよい。4型はスキルス胃がんとよばれるものが多く、最も予後不良である[1]。進行がんのうちでは2型・3型が多い[2]。4型は内視鏡で早期に見つけにくいので、X線検査を併用する[2]。
0型(表在型)の亜分類
| 亜分類 | 特徴 |
|---|---|
| 0-Ⅰ型(隆起型) | 明らかな腫瘤状の隆起 |
| 0-Ⅱa型(表面隆起型) | 低い隆起 |
| 0-Ⅱb型(表面平坦型) | 正常粘膜の凹凸を超える隆起・陥凹がない |
| 0-Ⅱc型(表面陥凹型) | わずかなびらん、または浅い陥凹 |
| 0-Ⅲ型(陥凹型) | 明らかに深い陥凹 |
出典:[1] p.157。早期胃がんではⅡc型が最も多い[2]
T因子(壁深達度)
| T | がんの深さ |
|---|---|
| T1a | 粘膜にとどまる(M) |
| T1b | 粘膜下組織にとどまる(SM) |
| T2 | 固有筋層にとどまる(MP) |
| T3 | 固有筋層を越え、漿膜下組織にとどまる(SS) |
| T4a | 漿膜表面に接するか、破って腹腔に露出している(SE) |
| T4b | 直接ほかの臓器まで及ぶ(SI) |
出典:[1] p.157–158
深さが看護の見る場所を変える。粘膜にとどまるうちは内視鏡で取りきれることがあり、取ったあとに見るのは出血と、病理で粘膜下層まで届いていないかである。筋層や漿膜まで進めば、お腹を開けて胃を切り、つなぎ直す。見る場所は創だけではなく、吻合、膵の上縁、迷走神経の肝枝に移る。Tの数字は病期のラベルではなく、術後にどの合併症を重く置くかの切り替えである。
N因子(リンパ節転移)とM因子(遠隔転移)
| N・M | 内容 |
|---|---|
| N0 | 領域リンパ節に転移を認めない |
| N1 | 1〜2個の転移 |
| N2 | 3〜6個の転移 |
| N3a | 7〜15個の転移 |
| N3b | 16個以上の転移 |
| M0/M1 | 領域リンパ節以外の転移を認めない/認める |
出典:[1] p.158
進行度分類(病理分類)
| N0 | N1 | N2 | N3a | N3b | |
|---|---|---|---|---|---|
| T1a・T1b | ⅠA | ⅠB | ⅡA | ⅡB | ⅢB |
| T2 | ⅠB | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB |
| T3 | ⅡA | ⅡB | ⅢA | ⅢB | ⅢC |
| T4a | ⅡB | ⅢA | ⅢA | ⅢB | ⅢC |
| T4b | ⅢA | ⅢB | ⅢB | ⅢC | ⅢC |
| M1 | T・Nにかかわらず Ⅳ | ||||
出典:[1] 表5-8(日本胃癌学会編『胃癌取扱い規約』第15版 p.26による)
治療方針を決めるときは画像・生検・審査腹腔鏡による臨床分類を、手術後は切除した組織による病理分類を使う。病理分類は臨床分類と一致しないことがあり、術後にステージが変わることもある[3]。受持ち患者のcTNMとpTNMは、カルテで確かめて書き込む。
参考文献
- [消]第5章 C-4 胃がん「原因」「分類」「進行度分類」pp.156–158、表5-8
- [内]第10章 各論「h.胃癌」pp.329–333、図10-62・63
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
Ⅰ2 胃がん(4)症状・検査・治療方針
症状
早期がんでは自覚症状はほとんどない。進行すると、腹痛や吐きけ、食欲不振、体重減少などが出てくるが、胃がんに特有の症状ではない[1]。
病巣からの出血で黒色便や貧血によるめまい・息切れが起こる。噴門部のがんは大きくなると嚥下困難を、幽門部のがんは頻回の嘔吐を起こしやすい[1]。
術前から食事量が落ちている患者は低栄養になりやすく、術後の創傷治癒や感染への抵抗力に影響する(Ⅱ-4 栄養)。
検査
| 検査 | 目的・内容 |
|---|---|
| 上部消化管内視鏡・生検 | 病変の場所・範囲・深さを見て、組織を取り病理診断する。超音波内視鏡で深さや近くのリンパ節を見ることもある |
| X線(バリウム)検査 | 胃の形や粘膜ひだの乱れを見る。腫瘍の位置を知るのに役立つ |
| 造影CT・MRI | 膵臓や十二指腸など周りの臓器への浸潤、リンパ節・肝臓・肺への転移、腹水。進行度分類に必須 |
| PET検査 | CTではっきりしない転移や再発 |
| 注腸・大腸内視鏡 | 腹膜播種が疑われるとき、大腸が圧迫されていないか |
| 審査腹腔鏡 | 全身麻酔で腹腔鏡を入れ、腹膜播種を直接確かめる。洗浄細胞診も行う |
| 腫瘍マーカー | CEA、CA19-9など。値だけでは診断できず、再発や治療効果の参考にする |
出典:[1] p.159–160、[2]
治療方針の全体像
基本的な治療方針は切除である。高度に進行して切除できない場合は、化学療法を行う[1]。
| 治療 | 対象・内容 |
|---|---|
| 内視鏡的切除(EMR・ESD) | リンパ節転移の可能性がきわめて低く、一括切除できる大きさと部位にあるもの。2cm以下の粘膜内がん(T1a)、分化型、潰瘍のないものなどが適応 |
| 手術 | 内視鏡で切除しにくい病変。胃と所属リンパ節を摘出し、消化管を再建する |
| 術後補助化学療法 | 進行度ⅡまたはⅢの根治切除後に、再発予防のために行う。S-1療法、SOX療法、CapeOX療法など |
| 切除不能胃がんの化学療法 | HER2やMSIの検査結果を受け、胃癌治療ガイドラインで推奨されるレジメンで行う |
出典:[1] p.160–162
EMRは粘膜下層に生理食塩液を入れてがんを浮かせ、輪状のワイヤーで切り取る。ESDは切除範囲に印をつけ、粘膜下層をはがして切り取る方法で、EMRより大きな腫瘍も一括で切除できる[1]。
内視鏡で一括切除できても、病理検査で粘膜下層に浸潤していれば、手術による追加切除が必要になる[1]。
参考文献
- [消]第5章 C-4 胃がん「症状」「診断」「治療」pp.158–162、図5-16・17
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 検査」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/diagnosis.html
Ⅰ2 胃がん(5)術式・再建法・アプローチ
術式(切除範囲)
| 術式 | 切除範囲と対象 | 主な再建法 |
|---|---|---|
| 胃全摘術 | 胃上部や胃全体に広がるがん。胃をすべて摘出し、食道と空腸を吻合する | Roux-en-Y法が最も一般的。空腸間置法、double tract法 |
| 幽門側胃切除術 | 胃中部から下部のがん。胃の幽門側2/3〜3/4を切除する | ビルロートⅠ法、ビルロートⅡ法、Roux-en-Y法、空腸間置法 |
| 幽門保存胃切除術 | 胃上部1/3と、幽門・幽門前庭部の一部を残す | 胃胃吻合法 |
| 噴門側胃切除術 | 噴門を含み幽門を残す | 食道残胃吻合法、空腸間置法、double tract法 |
| 胃局所切除・部分切除 | 胃の非全周性の切除 | — |
出典:[1] p.161、[2]
リンパ節転移があるかT2以深のがんでは、幽門側胃切除か胃全摘のどちらかを選ぶ。口側の切り口から十分な距離が取れれば幽門側胃切除、取れなければ胃全摘になる[2]。
再建法の特徴
ビルロートⅠ法(B-Ⅰ)
幽門側胃切除のあと、残った胃と十二指腸を直接つなぐ。食物が十二指腸を通る、本来に近い通り道になる[1][3]。
吻合部が1か所で済む。残胃が小さいと緊張がかかり、つなげないことがある。
ビルロートⅡ法(B-Ⅱ)
十二指腸の断端を閉じ、残った胃と空腸をつなぐ[1][3]。十二指腸側の腸(輸入脚)には胆汁と膵液が流れ、胃から食物が流れる腸(輸出脚)とつながる。
ビルロートⅡ法のあとには、輸入脚に胆汁や膵液がたまり、内圧が上がって突然胃に逆流し、胆汁性嘔吐を起こす輸入脚症候群がある[4]。
Roux-en-Y法(R-Y)
空腸を切り、先の側(挙上空腸)を食道や残った胃につなぎ、十二指腸側の空腸は途中の空腸につなぎ直す[1][3]。胃全摘後の再建で最も一般的で、幽門側胃切除でも使う[1]。
胆汁や膵液が食物の通り道に逆流しにくい。吻合部が2か所になる。
観察につなげる再建法によって吻合部の数と場所が違う。縫合不全や吻合部の通過障害を考えるときは、手術記録の図で「どこと、どこを、何か所つないだか」を確かめてから、ドレーンの位置と排液を見る。
アプローチ
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 開腹手術 | おなかを20cmほど切開する |
| 腹腔鏡下手術 | 小さな穴から器具を入れる。創が小さく回復が早いといわれるが、技術的に難しい。進行度Ⅰがよい適応 |
| ロボット支援手術 | 腹腔鏡下手術と同じく小さな穴から行う |
出典:[1] p.161、[5]
cStageⅠの幽門側胃切除では、腹腔鏡下手術が標準治療の選択肢の一つとして強く推奨されている[2]。入院期間は一般に手術前1〜2日、手術後7〜14日程度である[5]。
手術で起こる体の変化(看護で押さえること)
- 創:上腹部の創は深呼吸や咳で痛み、呼吸が浅くなりやすい(無気肺)。
- 腸:開腹操作と麻酔・オピオイドで腸の動きが一時的に止まる(イレウス)。
- 吻合部:消化液が漏れれば腹膜炎になる。食事開始後に症状が出ることがある。
- 膵臓の周り:D2郭清で膵液漏が起こりうる。
- 食べ方:胃が小さくなる・なくなることで、食べ方を変える必要が出る(胃切除後症候群)。
参考文献
- [消]第5章 C-4 胃がん「手術」p.161、図5-18・19
- 日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン 第6版」Ⅱ章A 手術 https://www.jgca.jp/guideline/sixth/002_01.html
- 再建法とアプローチの学習範囲
- [内]第10章 各論「j.胃切除後症候群」pp.333–334
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
Ⅰ2 胃がん(6)術後合併症
教科書では、胃がんの術後合併症として次の8つを挙げている[1]。がん情報サービスは、これに腹腔内膿瘍を加えている[2]。
①術後出血
消化管の中や腹腔内に出血することがある。内視鏡検査、CT検査、血管造影検査で出血源を確かめる[1]。
消化管内の出血は内視鏡で焼く・クリップで止め、腹腔内の出血は血管造影で塞栓術を行う。止まらなければ手術で止血する[1]。
観察:頻脈、血圧低下、顔色不良、冷汗、尿量減少、ドレーン排液の血性化と量の増加、胃管からの血性排液、吐血・下血、Hbの低下。
②縫合不全
消化管再建でつないだ吻合部から、胆汁や膵液などの消化管の内容が腹腔内に漏れ出る[1]。炎症で痛みと熱が出て、悪化すると腹膜炎になり、再手術が必要になることがある[2]。
経口摂取を中止し、中心静脈栄養などで栄養管理をする。同時に、漏れ出た内容物をチューブで体外に出すドレナージを行う[1]。
観察:発熱、腹痛、腹膜刺激症状(反跳痛、筋性防御)、ドレーン排液の混濁や胆汁・食物残渣の混入、炎症データ。食事開始後の変化に特に注意する。
③吻合部通過障害
吻合部のむくみで、術後に一時的に食物が通りにくくなることがある。内視鏡でバルーンを使って広げる[1]。
観察:食後のつかえ感、嘔吐、胃管の排液量、食事摂取量。
④腸管麻痺(イレウス)
手術後の腹腔内の炎症で腸の動きが止まることがある。通常は炎症がおさまるとともに改善する[1]。
観察:腸蠕動音、排ガス、腹部膨満、悪心・嘔吐。
⑤腸閉塞
術後の腹腔内の癒着で腸がふさがることがある。絶食で軽快することが多いが、改善しない場合は手術を考える[1]。
⑥急性胆嚢炎
胃切除で迷走神経の肝枝を切ると、胆汁がうっ滞して急性胆嚢炎を起こすことがある。絶食と抗菌薬で治療し、改善しなければ胆汁のドレナージを行う[1]。
観察:右上腹部痛、発熱、黄疸。
胃を切るときに、予防として胆嚢を一緒に取ることもある[1]。手術記録で胆嚢が残っているかを先に見る。残っていれば右上腹部の痛みは胆嚢炎を考える。取ってあれば、その痛みは胆嚢炎では説明できないので、縫合不全や膵液漏に戻って探す。
⑦膵液漏
リンパ節郭清のときに膵臓を傷つけ、腹腔内に膵液が漏れることがある。適切なドレナージと感染の予防を行う[1]。
膵液はたんぱく質や脂肪を分解する酵素を含むので、周りの臓器や血管を溶かし、膿瘍や出血を起こすことがある[2]。
観察:ドレーン排液の色の変化、排液アミラーゼ(指示があるとき)、発熱、腹痛、急な血性排液。
⑧呼吸器合併症
高齢者に多い合併症で、肺炎が多い。早期離床と、術前・術後の呼吸リハビリテーションで予防する[1]。
上腹部の創の痛みで深呼吸や咳が抑えられることが原因になる(無気肺)。
腹腔内膿瘍
縫合不全や膵液漏から感染が起こり、おなかの中に膿がたまる。腹痛・発熱が出て、画像で確かめ、抗菌薬や膿を出すカテーテルで治療する[2]。
ドレーン排液の見方(胃の手術)
| 排液の変化 | 考えること |
|---|---|
| 血性が続く・増える | 術後出血。膵液漏による血管の破綻もある |
| 混濁・胆汁様・食物残渣 | 縫合不全 |
| 色が変わる・膿性 | 膵液漏、腹腔内膿瘍 |
排液の正常な色と量の目安は術式と施設で違うので、病棟の記録で術後の経過を見て、前日との変化で判断する。
発熱・腹痛・排液を、一つずつ見ない
熱が出た、お腹が痛い、排液の色が変わった、のどれか一つでは合併症は決まらない。三つを同じ時刻に見て、どの組み合わせかを言う。
術後すぐの熱は、傷ついた組織から出るサイトカインによる吸収熱であることが多い(Ⅲ)。痛みの場所が創に限られ、腹膜を刺激する所見がなく、ドレーンの性状が前日と同じなら、まず吸収熱として経過を見る。熱だけを感染と決めつけない。
食事を始めたあとに熱が上がり、痛みがお腹の限られた場所で強くなり、体を動かすと増して、反跳痛や筋性防御があり、ドレーンが混濁したり胆汁や食べたものが混じったりすれば、縫合不全から腹膜炎へ進んでいると考える。経口は止め、排液を捨てずに残し、バイタルとお腹の所見をセットで報告する。
熱に右上腹部の痛みと黄疸がそろうときは、迷走神経の肝枝を切ったあとの急性胆嚢炎を先に置く。お腹全体が鈍く張って、蠕動音がほとんど聞こえず、排ガスがなければ腸管麻痺である。音が高く金属様で、痛みが波を打てば、癒着で腸がふさがっている方に寄る。
膵液漏は、排液の色の変化と、指示があるときの排液アミラーゼで疑う。膵液は周りの組織を溶かすので、一度落ち着いたあとに再び急に血性になる排液は、術直後の出血とは別に、膵液が血管を破った出血として見る。量だけが増える直後の出血と、日がたってから血性が戻る出血は、起き方が違う。
自分が先にすることお腹の所見と排液を取ってから、指示の範囲で痛みを和らげる。痛みが強いことと、腹膜炎が起きていることは別の問題で、片方だけ見ると漏れる。嘔吐があれば顔を横に向け、呼吸音を確かめてから吸引する。
参考文献
- [消]第5章 C-4 胃がん「術後におこりうる症状」術後合併症 ①〜⑧ p.162
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 治療」3.手術(2)手術の合併症 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
Ⅰ2 胃がん(7)胃切除後症候群と退院に向けた支援
胃を切除したことによる後遺症を、胃切除後症候群という[1]。手術直後に出るものと、ある程度たってから出るものがある[2]。
新しい胃腸に慣れるまで、数か月から1年ほどかかることもある[3]。
ダンピング症候群
| 早期ダンピング症候群 | 晩期(後期)ダンピング症候群 | |
|---|---|---|
| 時期 | 食後30分前後 | 食後2〜3時間 |
| しくみ | 胃の貯留能が低下し、小腸に食物が急速に流れ込む | 小腸に急に流れ込んだ食物で一時的に高血糖になり、インスリンが出すぎて低血糖になる |
| 症状 | めまい、頻脈、発汗、嘔吐、下痢、腹痛、全身倦怠感 | めまい、発汗、心悸亢進、全身倦怠感などの低血糖症状 |
| 対応 | 1回量を減らし回数を多くする食べ方で軽快することが多い | 同じ食べ方で予防する。低血糖症状が出たら糖質をとる |
出典:[1] p.162–163
ダンピング症候群の治療は、不安を取り除くことと食事指導である[2]。
食後にめまいと発汗と頻脈が出ても、原因は一つではない。食後30分前後で、下痢や腹痛を伴い、ドレーンが血性でなければ早期ダンピングである。同じ汗と動悸でも、食後2〜3時間で、食事の直後には一度落ち着いていれば晩期ダンピングの低血糖である。糖を足すのは晩期のときである。早期に糖や汁物を足すと、小腸へ流れ込む量が増えて症状が強くなる。一度にたくさんの炭水化物を取らない、という食べ方がここで効く。
ビルロートⅡのあとに、食事と関係して突然、胆汁のようなものを吐くのは輸入脚症候群である。汗と下痢が前面に出るダンピングとは吐くものが違う。吐血で、頻脈が食事と無関係に出て、ドレーンや胃管が血性なら出血である。四つは時刻と、吐いたものと、排液で分かれる。不安を取る、は気休めではなく、症状の説明ができないと患者が食べなくなり、早期も晩期も起きやすくなる、という意味である。
そのほかの後遺症
| 後遺症 | しくみ | 対応 |
|---|---|---|
| 小胃・無胃症状 | 胃が小さくなる・なくなり、少ししか入らない | 回数を増やし、少量ずつ時間をかけて食べる |
| 鉄欠乏性貧血 | 鉄の吸収障害 | 鉄剤の内服など |
| 巨赤芽球性貧血 | 胃全摘後は内因子が欠乏し、ビタミンB12の吸収が悪くなる。術後5〜10年でB12が枯渇して起こることがある | 定期的な血液検査、ビタミン剤の補充 |
| 骨代謝障害 | カルシウムとビタミンDの吸収障害。重症では腰椎圧迫骨折の可能性もある | カルシウム製剤・ビタミンD製剤、筋力をつける運動 |
| 逆流性食道炎 | 胃液や十二指腸液が食道に逆流し、胸やけが出る。噴門側胃切除や胃全摘後に多い | 食後すぐ横にならない。食事は就寝2〜4時間前まで |
| 輸入脚症候群 | ビルロートⅡ法後、輸入脚に胆汁・膵液がたまり、胆汁性嘔吐を起こす | 基本は再手術。軽症は脂肪の少ない食事で軽快 |
| 腹痛・下痢 | 十分に消化できない、食物が急に小腸に入る | 内服薬で改善することがあるので相談する |
出典:[1] p.163、[2] pp.333–334、[3]
食事指導の要点
- 「少量ずつ」「何回かに分けて」「よくかんで」「ゆっくり」食べる[3]。
- 水分で固形物を流し込まない[3]。
- 一度にたくさんの炭水化物をとらない。低血糖症状が出そうならアメなどで糖分を補う[3]。
- 脂肪の多い食事を控え、食後すぐ横にならない(逆流の予防)[3]。
- 体重、食事量、便の状態を記録し、外来で相談する。
退院に向けて看護師が確かめること
- 本人と家族が、食べ方の変化と理由を自分の言葉で説明できる。
- ダンピング症候群の症状と、出たときの対処(横になって休む、糖分をとる)を言える。
- 創部の洗い方と、受診が必要な症状を言える(Ⅶ-3)。
- 定期的な血液検査で貧血を見ていくことを理解している。
参考文献
- [消]第5章 C-4 胃がん「胃切除後症候群」pp.162–163
- [内]第10章 各論「j.胃切除後症候群」pp.333–334
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 療養」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/follow_up.html
第2章学習ノート
Ⅰ 肺
この章で見ること
なぜこの章か。右は3葉、左は2葉。切ったあとに残るのは、しぼませていた側の膨らみと、咳で痰を出せるかどうか。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅰ3 肺がん(1)臓器の構造と機能
気道と肺の区分
気道は、鼻腔・咽頭・喉頭までの上気道と、気管から先の下気道に分かれる[1]。気管は第5胸椎の高さで左右の主気管支に分かれ、肺門から肺に入る[1]。
右の主気管支は上葉・中葉・下葉の3本の葉気管支に、左は上葉・下葉の2本に分かれる。右肺は3葉、左肺は2葉で、それぞれの肺葉はさらに区域に分かれ、両肺で18区域ある[1][2]。
体表からの目安として、肺尖は鎖骨より上から第2肋骨下縁まで、その下が第4肋骨下縁まで、さらに横隔膜までと区切る。気管分岐部は第2肋骨の高さにある[3]。聴診では、この区切りを使って上葉・中葉・下葉の音を聞き分ける。
気管支の枝分かれと肺胞
気管支は分岐を繰り返し、終末細気管支、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢を経て肺胞に至る。肺胞で酸素を取り込み、二酸化炭素を出す[1]。
気道の粘膜には線毛があり、吸い込んだ異物を粘液にからめて口の方へ運び出す[1]。喫煙や全身麻酔はこの働きを弱めるので、術後は痰が出しにくくなる(Ⅲ-5 呼吸器合併症)。
胸膜・縦隔・横隔膜
肺の表面を覆う胸膜を臓側胸膜、胸壁の内側を覆う胸膜を壁側胸膜という。二つのあいだの胸膜腔には少量の漿液があり、呼吸のときの摩擦を減らしている[1]。
左右の肺に挟まれた部分が縦隔で、心臓、大血管、気管、食道、胸管、神経などがある[1]。横隔膜は胸腔と腹腔を分ける筋肉で、呼吸の主役である[1]。
呼吸のしくみ
息を吸うときは、横隔膜と肋間筋が収縮して胸郭が広がる。胸腔内圧が陰圧になり、肺は受け身で膨らむ[1]。
安静時の胸腔内圧は −5〜−10Torr ほどの陰圧に保たれている[1]。肺そのものには膨らむ力がないので、胸腔に空気や液体がたまって陰圧が失われると、肺はしぼむ。これが気胸であり、胸腔ドレーンで陰圧を取り戻す理由である(Ⅰ-6)。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 1回換気量 | 約500mL |
| 死腔 | 約150mL(ガス交換にかかわらない気道の容積) |
| 肺胞換気量 | 1回あたり約350mL |
| 正常な呼吸数 | 14〜20回/分 |
出典:[1]
浅く速い呼吸では、1回ごとの死腔の割合が大きくなり、肺胞に届く空気が減る。術後の痛みで呼吸が浅くなると、呼吸数が増えていてもガス交換は悪くなる。
参考文献
- [内]第9章「呼吸器疾患」総論 1.構造、2.機能 pp.239–246
- [呼]第5章 H 肺腫瘍「外科療法」p.197
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(肺の解剖)
Ⅰ3 肺がん(2)主要血管と神経・リンパ・周辺臓器
肺の周りには、生命にかかわる血管と神経が密集している。どの構造が腫瘍や手術の影響を受けたかで、症状と術後の観察項目が変わる。
主要な神経と、障害されたときの症状
| 構造 | 働き | 障害されたとき |
|---|---|---|
| 反回神経 | 声帯を動かす。迷走神経の枝 | 嗄声。声門が閉じにくく咳が弱くなり、むせやすい |
| 横隔神経 | 横隔膜を動かす | 片側の横隔膜が挙上し、呼吸が弱まる |
| 交感神経幹(頸部) | 瞳孔を開く、まぶたを上げる、顔の発汗 | ホルネル症候群(縮瞳、眼瞼下垂、顔面の発汗停止) |
| 腕神経叢 | 腕の運動と感覚 | 上腕の痛み(パンコースト型) |
| 肋間神経 | 胸壁の感覚 | 術後の胸の痛み・しびれ |
出典:[1][2][3]
反回神経は、右は腕頭動脈、左は大動脈弓の下をくぐって反転し、喉頭へ上がる。左のほうが走行が長く、縦隔を通るので障害されやすい[1]。
横隔膜の麻痺は片側だけのことが多く、手術による横隔神経の損傷などで起こる。胸部X線で横隔膜の挙上として見える[4]。
主要な血管とリンパ管
| 構造 | 位置と意味 |
|---|---|
| 肺動脈・肺静脈 | 肺門から出入りする。肺葉切除では、その肺葉に向かう肺動脈・肺静脈と葉気管支を切り離す |
| 上大静脈 | 右の縦隔にある。圧迫されると上大静脈症候群(顔・首・腕のむくみ、胸壁の静脈の怒張) |
| 大動脈・奇静脈 | T分類の浸潤先として出てくる |
| 胸管 | 脂肪を含むリンパ液を静脈へ運ぶ。傷つくと乳び胸 |
出典:[1][3][5]。上大静脈症候群は右側の腫瘍で起こりやすい[1]
肺がんのT分類には、壁側胸膜、胸壁、心膜、横隔神経、奇静脈、反回神経、迷走神経、食道、横隔膜、心臓、大血管などへの浸潤が並ぶ[5]。周りの構造に広がるほど病期が進む、と覚えておくと、T分類が読みやすくなる。
転移とリンパ節郭清による変化
転移しやすい場所は、リンパ節、肺の中のほかの部位、胸膜、骨、脳、肝臓、副腎である[6]。骨転移では痛みや病的骨折、脳転移では頭痛や麻痺などの神経症状が出る[1]。
肺葉切除では、通常リンパ節郭清も行う[5]。郭清では次の変化に注意する[3]。
- 嗄声:左側の縦隔リンパ節を郭清するとき、反回神経を傷つけたり炎症が及んだりして声がかすれる。
- 乳び胸:胸管を傷つけると、食事の脂肪を含むリンパ液が胸腔に漏れ、呼吸困難や栄養障害を起こす。ドレーン排液が白く濁る。
- 神経の損傷による痛み・しびれ:横隔神経や交感神経などへの影響で起こる。
肋間神経が傷つくと、雨の日や冷えたときに痛むことがあり、手術した側の胸に鉄板を入れられたような感じがすることもある。多くの人が経験し、しだいにやわらぐ[7]。
参考文献
- [呼]第5章 H 肺腫瘍「症状」pp.191–192
- [内]第9章 呼吸器疾患「肺癌」症状
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(腫瘍の位置と症状、リンパ節郭清による影響)
- [呼]第5章「横隔膜疾患」横隔膜麻痺
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html
- 同「肺がんについて」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/about.html
- 日本肺癌学会「患者さんと家族のための肺がんガイドブック 2024年版」Q62 https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2024/2024/Q62.html
Ⅰ3 肺がん(3)原因・組織型・症状
疫学と原因
原発性肺がんは、2021年の部位別がん死亡数で第1位である[1]。男女比はかつて10:1〜5:1だったが、女性の喫煙率の上昇などで3:1ほどになっている[1]。
最大の原因は喫煙で、肺がんの80%は喫煙に関連して起こるとされる[2]。夫が喫煙者の妻の肺がん死亡率は、夫婦とも非喫煙者の妻の約1.9倍という報告があり、受動喫煙も危険因子になる[1]。
喫煙量は「1日の本数×喫煙年数」のブリンクマン指数で表す。400以上が肺がんの危険群、600以上が高危険群とされる[1]。受持ち患者の喫煙歴は、この指数に直してアセスメントシートに書く。
組織型
| 組織型 | 割合 | 特徴 |
|---|---|---|
| 腺がん | 55% | 増加傾向。末梢の肺野に多い。女性にとくに多い。早期からリンパ行性・血行性転移を起こしうるが、すりガラス陰影を示す置換型腺がんは転移しにくく予後がよい |
| 扁平上皮がん | 30% | 減少傾向。喫煙との関係が強い。従来は中枢(肺門)発生が多かったが、近年は末梢にもみられる |
| 小細胞がん | 10% | 喫煙との関係が強い。小さいうちから血行性転移を起こしやすく、進行が速い。抗がん薬がよく効く |
| 大細胞がん | 1〜2% | 男性に多い。喫煙との関係あり |
出典:[1] 図5-22(割合は日本肺癌学会 2022年版 患者さんのための肺がんガイドブックによる)
腺がん・扁平上皮がん・大細胞がんは、転移の形や治療の効き方がほぼ同じなので、まとめて非小細胞肺がんとよぶ[1]。手術の対象になるのは主に非小細胞肺がんで、小細胞がんは原則として手術を行わず、化学療法と放射線療法が中心になる[2]。
肺門に近い太い気管支にできる中心型(扁平上皮がん、小細胞がん)は喀痰細胞診で、末梢型(腺がん)はCTで見つかりやすい[2]。
胸膜播種
がんが臓側胸膜を破って胸腔に露出すると、がん細胞が胸膜の表面に散らばって増える。これを胸膜播種といい、腺がんに最も多い[1]。病理分類ではⅣ期になるが、胸腔の中にとどまるので、遠隔転移のあるⅣ期よりは予後がよい[1]。
症状
肺がんの症状は、腫瘍のある場所で変わる[1]。早期には症状がないことが多い。
| 症状 | しくみ |
|---|---|
| 血痰・咳・発熱・喀痰 | 太い気管支のがんで早く出る。気管支がふさがると奥の肺に肺炎が起こる |
| 胸痛 | 肺の中には痛覚神経がない。胸壁への浸潤、肋骨転移、がん性胸膜炎で起こる |
| 嗄声 | 反回神経の麻痺。左に多い |
| 顔・首・腕のむくみ | 上大静脈症候群。右側の腫瘍 |
| 上腕の痛み | 肺尖部の腫瘍が腕神経叢に浸潤(パンコースト型) |
| 縮瞳・眼瞼下垂・顔の発汗停止 | 頸部交感神経の障害(ホルネル症候群) |
| 転移による症状 | 脳(頭痛・麻痺)、骨(痛み・病的骨折)、肝臓、副腎 |
| 腫瘍随伴症候群 | がんが出すホルモン様物質による。SIADH、ランバート・イートン症候群、高カルシウム血症など |
出典:[1] pp.191–192、[2]
参考文献
- [呼]第5章 H 肺腫瘍「原発性肺がん」「症状」pp.190–192、図5-22・23
- [内]第9章 呼吸器疾患「肺癌」
Ⅰ3 肺がん(4)検査と病期
検査の三つの目的
肺がんの検査には、がんかどうかを確かめる(確定診断)、どこまで広がっているかを調べる(病期診断)、手術に耐えられるかを調べる(耐術能の評価)の三つの目的がある[1]。
| 検査 | 目的・内容 |
|---|---|
| 胸部X線 | 最初に行う。がんを疑う影を探す |
| 胸部CT | 病変の大きさ・場所、リンパ節や他臓器への転移。造影剤を使うこともある |
| 喀痰細胞診 | X線で見つけにくい肺門部のがんを探す |
| 気管支鏡検査・生検 | 細い内視鏡で気管支の中を見て組織を取り、確定診断する |
| 経皮的針生検・胸腔鏡検査 | 気管支鏡で届かない、診断がつかないときに行う |
| FDG-PET、頭部MRI、骨シンチグラフィ | 脳・骨などへの転移と、がんの広がりを見る |
| 呼吸機能検査、動脈血ガス、心電図 | 手術に耐えられるか(Ⅱ-2) |
出典:[1][2]
気管支鏡検査の看護
- 前:絶食にする。のどにリドカインを噴霧して局所麻酔する。リドカイン中毒(口のしびれ、気分不良、けいれん)に注意する[3]。
- 中:出血、気胸、不整脈、低酸素血症が起こりうる。SpO2と脈拍を見る[3]。
- 後:最低2時間は安静にする。飲食の前に少量の水を飲んでもらい、むせがないことを確かめてから食事を始める[3]。
腫瘍マーカー
| マーカー | 特徴 |
|---|---|
| CEA | 肺がんの40〜60%で陽性。大腸がん・胃がんなどでも陽性になる |
| CA19-9 | 肺がんの20〜30%で陽性。肺の炎症性疾患でも高値になることがある |
| NSE | 小細胞がんの70%以上で陽性 |
| ProGRP | 小細胞がんの70〜80%で陽性。ほかの肺がんではほとんど陽性にならない |
| CYFRA21-1 | 扁平上皮がんの70〜80%で陽性 |
出典:[1] 表5-21
腫瘍マーカーが高いだけで肺がんとは言えず、基準値内でも否定できない[1]。治療効果や再発の目安として経過を見る。
全身状態(PS)
| PS | 状態 |
|---|---|
| 0 | 無症状で、正常の生活をしている |
| 1 | なんらかの自覚症状があるが、ほぼ普通に生活できる |
| 2 | 症状はあるが、日中の50%以上は起きている |
| 3 | 症状があり、日中の50%以上は臥床している |
| 4 | ほとんど臥床したままの状態である |
出典:[2] 表9-8
PSは全身状態の目安で、予後を推測し治療方針を決めるのに使う。化学療法は一般に全身状態が良好な人だけが対象になる[2]。
病期(TNM分類、肺癌取扱い規約 第9版)
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| T1 | 肺または臓側胸膜の中、葉気管支より末梢にとどまる。T1a(充実成分1cm以下)、T1b(1cmを超え2cm以下)、T1c(2cmを超え3cm以下) |
| T2 | T2a:3cmを超え4cm以下、または臓側胸膜浸潤・隣の肺葉への浸潤・主気管支に及ぶ・無気肺や閉塞性肺炎がある。T2b:4cmを超え5cm以下 |
| T3 | 5cmを超え7cm以下、または壁側胸膜・胸壁・心膜・横隔神経・奇静脈への浸潤、同じ肺葉内に離れた腫瘍がある |
| T4 | 7cmを超える、または縦隔・気管・反回神経・迷走神経・食道・横隔膜・心臓・大血管などへの浸潤、同じ側の別の肺葉に腫瘍がある |
| N | N0:転移なし。N1:同じ側の気管支周囲・肺門・肺内。N2:同じ側の縦隔・気管分岐下(N2a単一領域、N2b複数領域)。N3:反対側の縦隔・肺門、鎖骨の上あたり |
| M | M1a:反対側の肺、胸膜・心膜への転移、悪性胸水・心嚢水。M1b:胸腔外の1臓器に1つ。M1c:胸腔外に複数 |
出典:[4]。非小細胞肺がんのステージはⅠA1期〜ⅣB期
教科書の病期分類は第8版で書かれている。第9版ではN2がN2a・N2bに分かれるなど細部が違うので、受持ち患者のカルテがどちらの版で書かれているかを確かめる[1][4]。
授業事例は腺がん、S6に4.0×3.5cm、cT2aN1M0、ⅡB期であった[5]。
参考文献
- [呼]第5章 H 肺腫瘍「検査・診断」pp.192–196、表5-21
- [内]第9章 呼吸器疾患「肺癌」、表(PS)
- [内]第9章 総論「気管支鏡検査」
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html、同「肺がん 検査」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/diagnosis.html
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(まとめ(術前看護))
Ⅰ3 肺がん(5)治療方針・術式・分離肺換気
病期ごとの治療
| 病期 | 進行度 | 治療法 |
|---|---|---|
| ⅠA期 | 早期の肺がん | 手術、もしくは定位放射線照射 |
| ⅠB期〜ⅡB期 | 比較的早期の肺がん | 手術±薬物療法 |
| ⅢA期 | 局所進行肺がん | 薬物療法±手術、または放射線療法 |
| ⅢB期・ⅢC期 | 局所進行肺がん | 薬物療法±放射線療法 |
| ⅣA期・ⅣB期 | 進行肺がん | 薬物療法 |
出典:[1] 表5-22。「±」は必要に応じて行う療法
手術で取った組織の病理病期で、再発の確率を見積もり、必要なら術後補助化学療法を追加する[1]。術前のCTと術後の病理が一致しないこともある。
手術の適応と成績
手術は局所の制御力が放射線より優れるが、体への侵襲が大きい。病気の広がりだけでなく、各臓器の機能から慎重に適応を決める[1]。
遠隔転移のある肺がんや、心臓・大血管に浸潤した肺がんは、原則として手術の対象から外れる[1]。
わが国の手術成績では、病期Ⅰ期の5年生存率が72〜83%であるのに対し、縦隔リンパ節転移のあるⅢA期では48%と低い[1]。術中と術後の死亡を合わせた周術期死亡率(30日以内)は、1994年の1.4%から2010年には0.4%まで下がった[1]。
術式
| 術式 | 内容 |
|---|---|
| 片側肺全摘術 | がんがある側の肺をすべて切除する。術後の肺機能や体力の低下が大きい。ここで学ぶ術式の中心には置いていない |
| 肺葉切除術 | がんのある肺葉を切除し、系統的縦隔リンパ節郭清を行う。根治手術の基本 |
| 区域切除 | 両肺で18ある区域のうち1〜2区域だけを切除する。2cm以下の小型肺がんで普及しつつある |
| 楔状切除(部分切除) | 区域の中の、がんがある部分だけを切除する縮小手術 |
出典:[1] p.197、[2]
縮小手術は、肺機能が低く肺葉切除に耐えられない場合にも行う。切除範囲は、片側肺全摘、肺葉切除、区域切除、楔状切除の順に小さくなり、体の負担もその順に小さくなる[2]。
アプローチは、胸部を15〜20cmほど切って肋骨の間を開く開胸手術と、小さな切開から胸腔鏡を入れる胸腔鏡下手術、ロボット支援下肺切除術がある。手術中に方法が変わることもある。術後は一般に数日以内に酸素が不要になり、歩行もできるようになる[2]。
分離肺換気(片肺換気)
肺の手術中は、手術する側の肺をしぼませて視野を作り、反対側の肺だけで換気する[3]。
術後は、しぼませていた手術側の肺の再膨張が遅れやすい。胸腔ドレーンで陰圧をかけて膨らませ、無気肺・再膨張の遅れのリスクとして看護計画に挙げる[3]。
カルテでは、片肺換気の有無、胸腔ドレーンの設定圧・リーク・固定位置、皮下気腫を確かめる[3]。
手術中は、手術する側の肺に空気を入れず、反対側だけで換気する。しぼんでいた肺胞は、術後に陰圧をかけてもすぐには戻らない。この遅れが再膨張の遷延である。そこに、挿管で線毛の動きが落ちて痰が増えること、麻酔で咳が抑えられること、創とドレーンの痛みで咳ができないことが重なる。授業で示された流れは、気管挿管、線毛運動の低下、分泌物の貯留、喀出困難、無気肺、である[3]。授業事例の開胸(左肺下葉切除)では、肋間筋・広背筋・前鋸筋が術野に入り、その痛みが咳をさらに抑える。
SpO2が下がる理由は一つに決まらない。麻酔後の浅い呼吸、痰、痛みによる咳の抑制、無気肺、再膨張の遅れ、肺を切ったことによる容積の減少が、同時にありうる[3]。酸素を足すだけで終わらせず、呼吸音の左右差、痰、痛み、水封室の気泡、皮下気腫を同じタイミングで見る。
放射線療法・薬物療法
放射線療法は、年齢や他臓器の機能の問題で手術ができないⅠ・Ⅱ期や、局所進行がんで行う。定位放射線照射は、小さな腫瘍に多方向から集中して当てる方法である[1]。
副作用として、放射線肺炎と放射線食道炎に注意する。咳・発熱・息切れ、飲み込むときの痛みを見る[1]。
薬物療法は、細胞障害性抗がん薬、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬を、組織型や遺伝子の検査結果で選ぶ[1][4]。
参考文献
- [呼]第5章 H 肺腫瘍「治療」pp.196–199、表5-22
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(無気肺・再膨張のカルテ情報)、5月28日講義(挿管から無気肺までの機序、開胸で入る筋)、7月10日講義(SpO2が下がる理由)
- [内]第9章 呼吸器疾患「肺癌」治療
Ⅰ3 肺がん(6)術後合併症と呼吸リハビリテーション
肺の手術では次の合併症が起こりうる。喫煙歴のある人や高齢の人で多い傾向があり、予防には手術前・手術後の呼吸訓練(深呼吸や咳の練習)が大切である[1]。
肺炎・無気肺
痰をうまく出せずに起こる。抗菌薬で治療する。術前からの禁煙で痰が減り、リスクが下がる[1]。
観察:発熱、痰の量・色・粘り、呼吸音の減弱や副雑音、SpO2、呼吸数、胸部X線。
肺瘻・気管支断端瘻
肺や気管支の切り口がうまくつかず、空気が漏れる。再手術が必要になることがある[1]。
観察:水封室の気泡(エアリーク)が続く・増える、皮下気腫の広がり、呼吸困難。
膿胸
切除後の胸の中で細菌が増え、膿がたまる。抗菌薬や再手術で治療する[1]。
観察:発熱、ドレーン排液の混濁、炎症データ。
術後出血
観察:ドレーン排液が血性で続く・増える、頻脈、血圧低下、Hbの低下。肺動脈・肺静脈を処理しているので、急な出血に備えてバイタルサインと排液を合わせて見る。
循環器系合併症
肺切除で一時的に心臓に負担がかかり、不整脈が出る。まれに心筋梗塞・脳梗塞・肺血栓が起こる[1]。
観察:心電図モニター、脈の不整、動悸、血圧。
肺水腫
肺の血管床が減った状態に、輸液の過剰や心機能の低下が重なると、肺に水がたまる。心疾患で術後肺水腫が多いことは、NYHA分類とあわせて押さえる[4]。
観察:呼吸困難、泡沫状の痰、湿った呼吸音、SpO2低下、水分出納・体重。
乳び胸・反回神経麻痺・横隔神経麻痺
乳び胸は胸管を傷つけ、脂肪を含むリンパ液が胸腔に漏れる。食事開始後に排液が白く濁り、量が増える[2]。
反回神経麻痺は左側の縦隔郭清で起こりうる。嗄声、むせ、咳の弱さを見る[2]。飲水や食事の開始時は、少量の水でむせないかを確かめる。
横隔神経が損傷されると、片側の横隔膜が挙上する[5]。呼吸音の左右差と胸部X線を見る。
皮下気腫・緊張性気胸
肺から漏れた空気が胸壁の皮下に入り込むと、皮下気腫になる。押すとプチプチする範囲に印をつけて、広がりを見る[3]。
胸腔の空気が一方向弁のように出られなくなると、緊張性気胸になる。患側の肺が完全にしぼみ、縦隔が反対側に押され、静脈の戻りが妨げられて血圧が下がる。緊急の胸腔ドレナージが必要になる[5]。
ドレーンの閉塞や屈曲、クランプのしたままの放置は、胸腔から空気が抜けない状態をつくる。急な呼吸困難、SpO2の低下、血圧の低下が出たら、すぐ報告する。
息苦しさの原因を、先に一つずつ否定する
肺の手術のあとにSpO2が下がっても、原因は無気肺とは限らない。水封室・排液・呼吸音・下肢を、酸素を上げるのと同じ時刻に見る。
| この組み合わせなら | 先に考えること |
|---|---|
| 気泡が急に増え、皮下気腫が広がり、血圧が下がる | 空気が胸腔から抜けていない。緊張性気胸。屈曲・閉塞・クランプを見て、動かさずに報告する |
| 気泡は続くが、呼吸と血圧は落ちていない | 肺瘻。気泡の範囲と皮下気腫の印をつけて、広がりで見る |
| 食事を始めてから排液が白く濁り、量が増える | 乳び胸。胸管から脂肪を含むリンパが漏れている |
| 泡沫状の痰、湿った呼吸音、入った水分が出た水分を上回る | 肺水腫。血管床が減った肺に、利尿期や輸液の過剰、弱い心機能が重なっている |
| 呼吸音が弱く、痰があり、熱がある。気泡はない | 無気肺、そこから進んだ肺炎。痛みで咳ができているかを先に確かめる |
| 突然の息苦しさと胸痛、頻脈。下肢の腫れや左右差 | 肺塞栓。歩かせない |
| 水を飲んでむせ、声がかすれる | 反回神経麻痺。最初の一口の前に、声と空嚥下を見る |
気泡が続く肺瘻と、気管支の断端が開く気管支断端瘻は、どちらも空気が漏れるが、後者は再手術になることがある。気泡が減らず、熱と混濁した排液が加われば、膿胸へ進んだものとして報告する。
呼吸リハビリテーション
肺の手術を行うと、肺活量の低下や痛みによって深呼吸や咳がしにくくなり、痰がたまって肺炎などが起こる。そのため手術の前後に深呼吸や咳の練習を行い、肺を十分に膨らませて痰を出しやすくする[1]。
- 最大吸気持続法:ゆっくり大きく吸って肺を膨らませ、数秒止める。トライボールやボリューメトリック エクササイザーは、吸った量や速さが目で見えるので、術前から練習する[3]。
- 口すぼめ呼吸:鼻から吸い、軽くすぼめた口からゆっくり吐く[3]。
- 咳の練習:創を手や枕で押さえて咳をする。ハフィングも使う。
- 呼吸困難を強める動作:腕を上げる、おなかを圧迫する、息を止める、同じ動作を繰り返す。動作と呼吸のリズムを合わせ、吐きながら動くよう工夫する[3]。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」3)手術後の合併症、7.リハビリテーション https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(リンパ節郭清による影響)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日・28日講義(呼吸練習器、呼吸困難を増強させる動作、胸腔ドレーンの観察)
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』pp.57–58(NYHA分類)
- [呼]第5章「気胸」「横隔膜疾患」pp.206–211
第3章学習ノート
Ⅰ 比較とドレーン
この章で見ること
なぜこの章か。熱も腹痛も、胃と肺で起きている腔が違う。同じ言葉を、同じ腔の話として扱わない。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅰ4 胃と肺の見分け方
同じ「がんの手術」でも、胃と肺では体の中で起こることが違う。受持ちが決まったら、この比較で「どちらの合併症を重く見るか」を最初に決める。
手術そのものの違い
| 観点 | 胃の手術 | 肺の手術 |
|---|---|---|
| 体腔 | 腹腔(開腹・腹腔鏡) | 胸腔(開胸・胸腔鏡) |
| 体位 | 仰臥位 | 側臥位(手術する側が上) |
| 換気 | 両肺で換気 | 分離肺換気。手術側の肺をしぼませる |
| つなぐもの | 消化管(再建・吻合) | つながない。気管支・血管を切り離して閉じる |
| 郭清 | 胃周囲。D2は膵上縁まで | 肺門・縦隔。左は反回神経の近く |
| 主なドレーン | 腹腔ドレーン、胃管 | 胸腔ドレーン(陰圧をかける) |
出典:Ⅰ-2・Ⅰ-3、Ⅳ-1
術後に重く見る合併症
| 系統 | 胃の手術 | 肺の手術 |
|---|---|---|
| 漏れ | 縫合不全、膵液漏 | 肺瘻(エアリーク)、気管支断端瘻 |
| 感染 | 腹腔内膿瘍、腹膜炎、創感染 | 膿胸、肺炎 |
| 呼吸 | 上腹部の創痛による無気肺・肺炎 | 残った肺の無気肺、再膨張の遅れ、肺水腫 |
| 循環 | 術後出血 | 術後出血、不整脈 |
| 消化 | 腸管麻痺、腸閉塞、吻合部通過障害、胆嚢炎 | 乳び胸(食事開始後) |
| 神経 | — | 反回神経麻痺(嗄声・誤嚥)、横隔神経麻痺 |
| 長期 | 胃切除後症候群 | 肋間神経の痛み、息切れ |
ドレーンの排液で考えること
| 排液の変化 | 胃(腹腔ドレーン) | 肺(胸腔ドレーン) |
|---|---|---|
| 血性が続く・増える | 術後出血、膵液漏による血管の破綻 | 術後出血 |
| 混濁 | 縫合不全、腹腔内膿瘍 | 膿胸 |
| 白く濁る | — | 乳び胸 |
| 気泡 | — | 肺瘻(エアリーク) |
同じ熱でも、探す体腔が違う
胃の手術のあとの熱は、腹腔(縫合不全、膵液漏、膿瘍、胆嚢炎)と、上腹部の創の痛みから来た無気肺の両方を探す。肺の手術のあとの熱は、胸腔(膿胸、漏れから進んだ感染)と、痰が出せない無気肺・肺炎を探す。息苦しさはどちらにも出る。胃では痛みで呼吸が浅いことが多く、肺では残った肺そのものと、しぼませていた肺の膨らみの遅れが多い。
ドレーンの中身で行き先が分かれる。腹腔ドレーンに消化液や食物があれば吻合の漏れ、胸腔ドレーンに気泡があれば空気の漏れ、白く濁れば胸管、血性が増えれば出血である。熱と息苦しさだけを共通の「術後合併症」として扱うと、見る場所がずれる。
アセスメントで重みが変わるところ
- 胃:術前の食事量と体重減少、Alb、貧血。術後は食事開始後の症状と、食べ方の再獲得。
- 肺:喫煙歴(ブリンクマン指数)、%VC・FEV1.0%、Hugh-Jones分類、PaO2。術後は残った肺の膨らみと、痰を出せるか。
- 共通:年齢、心機能、糖尿病、腎機能・肝機能、せん妄のリスク、離床の進み方。
Ⅰ5 クリニカルパスと資料
課題Ⅰでは、各疾患の代表的なクリニカルパスや関連図などの資料を準備する[1]。クリニカルパスは、手術前から退院までに「いつ・何を・どこまでできればよいか」を日ごとに並べた計画表である。
パスを読むときの見方
- 横軸:入院日、手術前日、手術当日、術後1日目、2日目…退院日。
- 縦軸:検査、処置、点滴・薬、食事、安静度(離床)、清潔、排泄、説明・指導。
- 達成目標:その日までに患者ができていること。遅れていれば、その理由を看護問題として考える。
パスどおりに進まないこと(バリアンス)は、合併症の早いサインになることがある。離床の遅れ、食事の延期、ドレーン抜去の延期は、原因を必ず確かめる。
出典にある時間の目安
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 術前入院 | 術前1〜2日[2] |
| 術後の病棟(転換期〜退院) | 術後3〜10日[2] |
| 胃がん手術の入院 | 一般に手術前1〜2日、手術後7〜14日程度[3] |
| 肺切除後の胸腔ドレーン | 通常、手術後1〜4日くらい[4] |
| 肺切除後の酸素・歩行 | 一般に数日以内に酸素が不要になり、歩行もできる[5] |
食事の開始日、ドレーン抜去の基準、離床の段階などの細かい日程は施設のパスで決まっている。下の並びは、公開されている時間の目安だけを置いたもので、施設のパスではない。
| 時期 | 胃の手術で言えること | 肺の手術で言えること |
|---|---|---|
| 術前 | 入院は術前1〜2日が目安。禁煙、呼吸練習、絶飲食の開始時刻は指示を写す | |
| 術後すぐ〜2日 | 腸の動きは48〜72時間で戻るのを待つ。このあいだの熱は吸収熱でもある | 胸腔ドレーンは通常1〜4日。酸素と歩行は数日以内に戻ることが多い |
| 術後3〜10日 | 入院は術後7〜14日程度が一般的な目安。食べ始めてから漏れとダンピングを見る | ドレーンが抜けたあとも、痰と再膨張の遅れを見る |
| 退院後 | 食べ方の変化。貧血は年単位で見る | 息切れ、肋間神経の痛み |
出典:上の時間の目安の表と同じ
施設のクリニカルパスが手に入ったら、下の欄に写しておく。
受持ち患者のパス記入欄
| 日 | 検査・処置 | 食事 | 安静度・離床 | ドレーン・点滴 |
|---|---|---|---|---|
| 入院日 | ||||
| 手術前日 | ||||
| 手術当日 | ||||
| 術後1日目 | ||||
| 術後2日目 | ||||
| 術後3日目 | ||||
| 術後4〜6日目 | ||||
| 退院日 |
準備しておく資料
- 胃の動脈とリンパ節の図、再建法(B-Ⅰ・B-Ⅱ・R-Y)の図(Ⅰ-2)。図は別冊「準備資料」の1〜2枚目。
- 肺の区域と縦隔の神経の図、胸腔ドレーンの装置の図(Ⅰ-3・Ⅰ-6)。図は別冊「準備資料」の3〜4枚目。
- 関連図は別紙「関連図(共通部分)」。下の材料を使い、疾患別の部分は受持ち決定後に書き足す。
- がん情報サービスの胃がん・肺がんのページ(患者向けの説明に使える)。
関連図に書く材料は、上から順に次の4段である。矢印には「なぜそうなるか」を短く書く。
| 段 | 書くこと |
|---|---|
| 疾患 | 診断名・病期、腫瘍の位置、術式、再建法または切除範囲、既往。受持ちが決まってから埋める |
| 手術・麻酔 | 全身麻酔、挿管、硬膜外、体位、切開、郭清、ドレーン。【胃】吻合と膵周囲の郭清。【肺】分離肺換気と縦隔郭清 |
| 生体反応 | 神経・内分泌(尿量減少、血糖上昇)、サイトカイン(発熱、サードスペース)、麻酔の直接の影響(分泌物増加、咳の抑制、腸の動きの低下) |
| 看護問題 | 疼痛、循環血液量減少、血栓、無気肺、麻痺性イレウス、感染。痛みが咳を止め無気肺になる、離床の遅れが血栓とイレウスにつながる、というつながりを書く |
参考文献
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅰ.臓器別の学習」
- 周術期の時期の区分(術前1〜2日、術直後〜2日目、術後3〜10日)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
- 日本肺癌学会「患者さんと家族のための肺がんガイドブック 2024年版」Q33 https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2024/2024/Q33.html
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html
Ⅰ6 胸腔ドレーン(Ⅶ-2と共通)
胸腔ドレーンは、実習病棟に関係なく全員が学ぶ[1]。肺切除のあとと、がん性胸膜炎のときでは、入れる理由と置く期間が違う。
なぜ陰圧をかけるのか
安静時の胸腔内圧は −5〜−10Torr ほどの陰圧で、肺はこの陰圧で膨らんでいる[2]。肺切除のあとの胸腔には空気や血液がたまり、陰圧が失われると残った肺が膨らめない。
胸腔ドレーンは、たまったものを外に出し、胸腔の陰圧を取り戻して肺を膨らませるために入れる。空気が外から逆に入らないよう、水封で一方向にだけ流す。
目的
- 陰圧で肺を膨らませる。
- 胸腔にたまった血液や滲出液を出す。
- 胸腔内の空気(エアリーク)を観察する。
出典:[3]
装置の見方
授業で用いたチェスト・ドレーン・バッグでは、部屋ごとに見るものが決まっている[3]。
| 部屋 | 見ること |
|---|---|
| 排液ボトル | 1日の排液量に印をつけ、前日と比べる。色と性状(漿液性・淡血性・血性)の変化を見る |
| 水封室 | 水面の呼吸性移動と、気泡(バブリング)。呼吸性移動があれば管が通っている目安になる。気泡が続くときはエアリークを疑う |
| 吸引圧制御 | 滅菌蒸留水の量が設定どおりか、吸引がかかっているかを気泡で確かめる |
肺切除のあと
切除したあとの部分には血液や空気がたまるので、ドレーンを入れて吸引する。通常、手術後1〜4日くらい入れておく[4]。
授業事例(中村さん、胸腔鏡補助下の左肺下葉切除)では、第7肋間中腋窩線上にトロッカーカテーテルを入れ、低圧持続吸引装置(トパーズプラス)で −10cmH₂O としていた[5]。これは授業事例の設定であり、施設の標準ではない。受持ち患者の装置と設定圧は、その病棟の指示で確かめる。
観察と管理のポイント
- 刺入部:発赤、滲出液、固定のゆるみ、皮下気腫(押すとプチプチする範囲に印をつけ、広がりを見る)。
- 回路:屈曲・閉塞・接続のゆるみがないか。バッグは刺入部より低く保ち、倒さない。
- 離床時:事故抜去に注意し、尿バッグや点滴スタンドと一緒に動かす段取りを決めてから動く[6]。
- 排液:血性の排液が続く・増えるときは出血を、白く濁るときは乳び胸を、混濁・発熱があれば膿胸を疑って報告する。
- 呼吸:呼吸音の左右差、SpO2、呼吸困難。ドレーンが詰まると空気が抜けず、気胸が進むことがある。
すぐ報告する変化
急な呼吸困難、SpO2の低下、血圧の低下が出たら、緊張性気胸を疑う。胸腔の空気が抜けないと患側の肺がしぼみ、縦隔が押されて静脈の戻りが悪くなり、血圧が下がる[7]。
ドレーンが抜けた、接続が外れた、バッグが倒れたときも、すぐ報告する。対応の手順は病棟の取り決めに従う。
がん性胸膜炎のとき
肺がんが胸膜に広がると胸水がたまり、量が多いと肺を圧迫して息苦しくなる。胸腔に管を入れ、数日から数週間、胸水を出し続ける。抜く前に、再びたまらないよう薬を入れて胸膜を癒着させることがある[8]。
管があるあいだは入浴できず、何度も胸水を抜くと体力を消耗し、細菌が入る危険も高くなる[9]。
胸腔穿刺との違い
胸水を一時的に抜くときは胸腔穿刺を行う。肋間の血管と神経は肋骨の下縁を走るので、肋骨の上縁に沿って針を刺す[10]。
参考文献
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅶ.2.ドレーン管理」
- [内]第9章「呼吸器疾患」総論 2.機能(呼吸運動)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年7月10日講義「胸腔ドレーンの目的」、5月28日講義「胸腔ドレーンの観察」
- 日本肺癌学会「患者さんと家族のための肺がんガイドブック 2024年版」Q33 https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2024/2024/Q33.html
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義「まとめ(術中看護)」
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(離床の様子の動画と問い)
- [呼]第5章「気胸」緊張性気胸 p.206
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」8.転移した臓器の治療 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html
- 日本肺癌学会「患者さんと家族のための肺がんガイドブック 2024年版」Q56 https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2024/2024/Q56.html
- [内]第9章 総論「胸腔穿刺」
第4章学習ノート
Ⅱ 術前の見方
この章で見ること
なぜこの章か。術前の呼吸と循環は、術後にどこまで落ちるかを読むための基準値になる。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅱ術前看護 1 術前アセスメントの目的
何のために行うか
手術と麻酔に体が耐えられるかを見極め、術中・術後に起こりうる合併症を予測して、術前から予防の準備をするために行う[1]。
竹内は、検査結果を看護過程に生かし、個別的な援助につなげることを挙げている。たとえば、スパイロメトリーの結果が悪く呼吸機能が低い人には、積極的に術前の呼吸訓練を指導する[1]。
三つの問い
この人の各機能は、いまどの程度か
問診・身体所見・検査値
問診・身体所見・検査値
↓
この手術・麻酔で、その機能に何が起こるか
術式・侵襲・麻酔の理解
術式・侵襲・麻酔の理解
↓
術前から何をしておくか
術前処置・ケア・指導
術前処置・ケア・指導
三つ目の問いの答えが、術前アセスメントシートの「術前処置・ケア」欄と、看護計画のO-P・T-P・E-Pになる。
肺がん・胃がんで特に見る機能
- 肺がん:呼吸機能。肺を切除すると肺活量が減るので、残る肺で生活できるかを見る。喫煙歴と痰の量も合わせて見る。
- 胃がん:栄養状態。術前から食事量が落ちていることが多く、術後もしばらく食べられない。貧血も見る。
- 共通:循環機能、止血機能、腎機能、肝機能、糖代謝。高齢者では予備能の低下とせん妄のリスク。
術前検査の看護(共通)
- 検査を受ける人の心身の準備:一方的に説明せず、患者の緊張をほぐすよう、目を合わせて理解を確かめながら説明する。
- 検査中の苦痛の緩和:介助しながら声をかけ、進み具合を伝える。
- 検査後のねぎらいと、異常の早期発見。
- 検査結果を看護過程に生かし、個別的な援助につなげる。
出典:[1] p.49
参考文献
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』第2章3「術前検査を受ける患者の看護」pp.49–68
Ⅱ2 術前検査(1)検体検査の内容・目的・正常値
基準値はJCCLS共用基準範囲と施設の基準を使い、術前に満たしたい目安は竹内の表2-15で押さえる。凝固検査はJCCLS共用基準範囲にないので、施設の基準値を使う。
血液検査
| 機能 | 主な項目(基準値) | 術前の目安・注意(竹内) |
|---|---|---|
| 肝機能 | AST 13〜30U/L、ALT 男10〜42/女7〜23U/L、T-Bil 0.4〜1.5mg/dL、ChE、Alb 4.1〜5.1g/dL | AST・ALTが100以上で慢性活動性肝炎が疑われるときは手術を延期。IgM型HA抗体・IgM型HBc抗体(高)陽性は急性肝炎で手術禁忌。黄疸がある人の手術は総ビリルビン5mg/dL以下が目安。Alb 3.0g/dL以上 |
| 止血機能 | PLT 158〜348×10³/μL、PT-INR・APTT(施設の基準値) | 血小板は最低5〜7万/μL必要。PT活性50〜80%以上 |
| 腎機能 | BUN 8〜20mg/dL、Cre 男0.65〜1.07/女0.46〜0.79mg/dL、eGFR | BUN30以下、Cre1.5以下が手術適応の目安。Ccr30mL/分以下は術後急性腎不全の可能性。高齢者はCcrが下がる |
| 内分泌 | 血糖 73〜109mg/dL、HbA1c 4.9〜6.0% | 糖尿病の術前コントロール指標:空腹時血糖100〜150mg/dL、1日尿糖10g以下、尿ケトン体陰性 |
| 栄養 | TP 6.6〜8.1g/dL、Alb 4.1〜5.1g/dL | TP 6.0g/dL以上、Alb 3.0g/dL以上を維持 |
| 貧血 | Hb 男13.7〜16.8/女11.6〜14.8g/dL | Hb 10g/dL以上、Ht 30%以上が必要 |
| 電解質 | Na 138〜145、K 3.6〜4.8mmol/L | K10mEq/Lで心停止。Na150以上・125以下は治療が必要 |
| 感染・免疫 | WBC 3.3〜8.6×10³/μL、CRP 0.14mg/dL以下 | 肝炎ウイルス・梅毒などの感染症、腫瘍マーカーも確認 |
出典:基準値は[2]、術前の目安は[1] pp.64–66
項目ごとの意味
- AST・ALT:肝細胞が壊れると血中に出る。麻酔薬の多くは肝臓で代謝されるので、術後の覚醒や肝障害に関係する。
- Alb・TP:栄養状態と、血管内に水を保つ力を表す。低いと創傷治癒が遅れ、術後にむくみや循環血液量の不足が起こりやすい。
- PLT・PT-INR・APTT:血が止まる力。低い・延長していると術中・術後の出血が増える。硬膜外麻酔を行えるかの判断にも使う。
- BUN・Cre・eGFR:腎臓の働き。麻酔薬や抗菌薬の排泄、術後の尿量に関係する。
- 血糖・HbA1c:高血糖は感染と創傷治癒の遅れにつながる。HbA1cはその時点の値ではなく、ここしばらくの血糖の平均を反映する。
- Hb:酸素を運ぶ力。胃がんでは病巣からの出血で術前から低いことがある。
- Na・K:Kの異常は不整脈の原因になる。胃の手術後は胃管の排液や嘔吐で失われやすい。
- WBC・CRP:炎症と感染。術前に高ければ、手術を延期するかの判断材料になる。
尿検査
尿糖・尿ケトン体・尿たんぱく・潜血を見る。糖尿病のコントロールと腎臓の障害の手がかりになる[1]。
採血・検体の扱い
採血後はしっかり圧迫止血し、出血や血腫を観察する。抗凝固薬を使っていないか事前に確かめる[1]。
参考文献
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』第2章3 pp.49–68、表2-15
- 日本臨床検査標準協議会(JCCLS)「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲」 https://www.jccls.org/wp-content/uploads/2022/10/kijyunhani20221031.pdf
Ⅱ2 術前検査(2)生体機能検査:呼吸
肺は麻酔の影響を最も受けやすい臓器である。喫煙歴のある人、肥満の人、肺疾患のある人、開胸・上腹部手術の予定の人では、スパイロメトリーと動脈血ガス分析が必須である[1]。
呼吸機能検査(スパイロメトリー)
加齢で肺活量・1秒率・1秒量・動脈血酸素分圧は下がり、機能的残気量・残気量は上がる[1]。
| 項目 | 見方 |
|---|---|
| %肺活量(%VC) | 予測肺活量に対する実測肺活量の割合。80%以下は拘束性換気障害(肺が十分に広がらない) |
| 1秒率(FEV1.0%) | 努力性肺活量に対する最初の1秒間の呼出量の割合。70%以下は閉塞性換気障害(気道が狭く吐き出しにくい) |
| 混合性換気障害 | 両方が混ざったもの |
| Hugh-Jones分類 | 息切れの程度をⅠ〜Ⅴ度で表す。Ⅳ度以上では術後の呼吸器合併症が多い |
出典:[1]、%VCと1秒率の区切りは[2]にも同じ記載
全身麻酔の術後は、最大換気量が術前の40〜60%に減り、酸素消費量は20%増えるといわれる[1]。入る酸素は減り、使う酸素は増える。初めて座るだけでSpO2が下がることがあるのは、新しい合併症ができたからとは限らない。この幅の中で起きている。だから離床の前に痛みを取って咳と深呼吸ができる状態にしておく。痛みを残したまま起こすと、減っている換気をさらに浅くする。
%VCが低い人は、吸って広げる力が足りない。肺を切ったあとは、残った肺でその不足を埋めるので、無気肺が直にSpO2へ出る。1秒率が低い人は、吐く力が足りず、痰が奥に残る。深く吸う練習だけでは足りず、口をすぼめて長く吐く練習が要る。二つの障害は、術後に痰が詰まる場所が違う。
拘束性・閉塞性換気障害のある人には、術前からトライボールなどで深くゆっくりした呼吸を練習する計画を立てる。喫煙者には少なくとも手術1週間前からの禁煙を計画する[1]。
検査のときの看護
- 食後すぐは呼吸が抑えられるので避ける。
- 胸腹部を締めつけない服にし、義歯は外す。
- 気管支拡張薬を使っている人は指示を確かめる。
- 検査中は口や鼻から空気が漏れないようにし、リラックスできるよう声をかける。
- 検査後は呼吸状態が悪くならないか確かめる。
出典:[1]
動脈血ガス分析
| 項目 | 基準値と読み方 |
|---|---|
| pH | 7.35〜7.45。7.45を超えるとアルカローシス、7.35未満でアシドーシス |
| PaCO2 | 35〜45Torr。換気量の良し悪しを表す。低換気で上がり、CO2ナルコーシスでは意識障害を伴う |
| PaO2 | 80〜100Torr。年齢とともに下がる(107−0.4×年齢) |
| HCO3⁻・BE | HCO3⁻ 24±2mEq/L、BE 0±2mEq/L。代謝性の酸塩基平衡を表す |
出典:[1][2]
PaO2とSaO2の関係は直線ではない。PaO2が40Torrのとき、SaO2はおよそ75%まで下がる[2]。SpO2は指先で連続して測れるので、術後はこれで酸素化を見る。
換気が足りずPaCO2が上がると呼吸性アシドーシス、過換気でPaCO2が下がると呼吸性アルカローシスになる[2]。
1枚の血液ガスは、pH、PaCO2、HCO3⁻の順に読む。pHが低くPaCO2が高ければ、吐き出せていない。痛み、残った筋弛緩、舌根、痰を先に見る。pHが高くPaCO2が低ければ、痛みか不安で過換気している。HCO3⁻が動いていれば、腎か代謝の側も見ている時間が経っている。SpO2が保たれて見えても、上の関係は直線ではないので、息苦しさと意識が動いたときは血液ガスに戻る。
チアノーゼは還元ヘモグロビンが5g/dLを超えて初めて見える。胃がんの人は出血と食事量の低下でヘモグロビンそのものが少ないことが多く、酸素が足りなくても唇は紫にならない。色を待たず、SpO2と呼吸数と意識で判断する。
身体所見で見る呼吸
| 項目 | 見方 |
|---|---|
| 呼吸数 | 正常は14〜20回/分。痛みで浅く速い呼吸になっていないか |
| 呼吸のパターン | チェーン・ストークス呼吸(無呼吸と深い呼吸を繰り返す)、ビオー呼吸(不規則)、クスマウル呼吸(深く大きい。代謝性アシドーシス) |
| 呼吸音 | 断続性副雑音:細かい捻髪音(fine crackles)、粗い水泡音(coarse crackles)。連続性副雑音:笛の音のような音、いびきのような音 |
| チアノーゼ | 血液中の還元ヘモグロビンが5g/dLを超えると、唇や爪が紫色になる |
出典:[2]
水泡音は気道に痰や水があるときに聞こえ、術後の痰の貯留や肺水腫の手がかりになる。貧血がある人は還元ヘモグロビンが5g/dLに達しにくく、低酸素でもチアノーゼが出にくい。
参考文献
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』第2章3 pp.55–58
- [内]第9章「呼吸器疾患」総論(呼吸機能、血液ガス、呼吸の異常、呼吸音、チアノーゼ、呼吸機能検査)
Ⅱ2 術前検査(3)生体機能検査:循環・画像検査・内視鏡検査
循環機能検査
問診(活動度、呼吸困難・動悸・胸痛、心疾患の既往)、心音・血圧などの身体所見、心電図、胸部X線が基本で、異常があれば心エコー、ホルター心電図、冠動脈造影を追加する。高齢者は安静時の心機能が保たれていても、負荷への予備能が落ちている[1]。
- NYHA分類:Ⅰ度(日常生活で症状なし)〜Ⅳ度(安静時にも症状)。虚血性心不全でⅣ度の人は、Ⅰ度の人より術後肺水腫が8倍多い。
- 心筋梗塞:発症から1か月以上たたないと再梗塞のリスクが高く、手術は禁忌。
- 心電図:洞調律は心拍数60〜100回/分。PQ時間0.12〜0.20秒、QRS幅0.06〜0.10秒、QT時間0.30〜0.45秒。最も注意が必要な不整脈は1分間に5個以上の心室期外収縮。
- 心拍数の求め方:R-R間隔が一定なら 1,500÷R-R間隔(mm)で求める。
出典:[1] pp.57–63
肺を切ると一時的に心臓へ負担がかかり、不整脈が出る(Ⅰ-3)。モニターで見るのは、速い脈か、リズムが乱れているか、である。1分間に5個以上の心室期外収縮は、竹内の記載で最も注意する不整脈である。脈が不規則でも血圧が保たれていれば記録して報告する。胸痛、血圧低下、泡の痰が加われば、不整脈だけで終わらせず、肺水腫と心筋の虚血を並べて見る。
画像検査
| 検査 | 内容・目的 | 看護 |
|---|---|---|
| 胸部X線 | 肺・心臓・横隔膜の状態。心胸郭比、肺の影、胸水 | 金属類を外す。術後の比較の基準になる |
| CT(造影) | 病変の大きさ・広がり、リンパ節や臓器への転移。胃では血管を立体画像にして手術に使う | 造影剤のアレルギー歴、腎機能、糖尿病薬の確認。検査後は水分をとってもらう |
| MRI | 脳転移(肺がん)、臓器への浸潤 | 強い磁場を使うので、体内の金属、ペースメーカーの有無を確かめる |
| FDG-PET | ブドウ糖に似た薬が集まる場所で、転移や再発を探す | 検査前の絶食。糖尿病の人は血糖の管理 |
| 骨シンチグラフィ | 骨転移 | — |
| 上部消化管X線(バリウム) | 胃の形、腫瘍の位置 | 検査後はバリウムが固まらないよう下剤と水分 |
出典:[2][3][4]。看護欄は検査の原理から整理
内視鏡検査
| 検査 | 内容・目的 | 看護 |
|---|---|---|
| 上部消化管内視鏡・生検 | 胃がんの確定診断、範囲と深さ。超音波内視鏡で深さとリンパ節 | 指示された時刻から絶食。のどの局所麻酔。検査後は麻酔が切れるまで飲食しない。生検後の出血(黒色便)に注意 |
| 気管支鏡・生検 | 肺がんの確定診断 | 絶食、リドカイン噴霧。出血・気胸・不整脈・低酸素。検査後は最低2時間安静、少量の水でむせがないかを確かめてから食事 |
| 審査腹腔鏡 | 胃がんの腹膜播種の確認 | 全身麻酔で行う。手術に準じた準備 |
出典:[2][3][5]
参考文献
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』第2章3 pp.57–63
- [消]第5章 C-4 胃がん「診断」pp.159–160
- [呼]第5章 H 肺腫瘍「検査・診断」pp.192–196
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 検査」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/diagnosis.html、「肺がん 検査」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/diagnosis.html
- [内]第9章 総論「気管支鏡検査」
第5章学習ノート
Ⅱ 準備と機能
この章で見ること
なぜこの章か。絶食の時刻は指示から写す。機能が悪いとき、この手術で何が起きるかまで書く。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅱ3 術前オリエンテーション・術前処置
術前オリエンテーションの目的
手術と術後の経過を患者がイメージでき、不安を減らすために行う。術後の回復に向けた行動(呼吸練習、早期離床、痛みを伝える)を術前から身につけてもらうことも目的である。
術後の姿を知っておくと、目が覚めたときの管やモニターへの驚きが減り、せん妄の予防にもつながる。家族にも同じ説明をすると、手術当日の待ち方と面会のときの声のかけ方が分かる。
術前オリエンテーションの内容
- 手術前日から当日の流れ(絶飲食の開始時刻、内服の継続・中止、入室時刻、家族の待機場所)。
- 術後の姿:点滴、ドレーン、尿道カテーテル、硬膜外カテーテル・PCA、酸素、心電図モニター[1]。
- 術後の痛みの伝え方(NRS)とPCAの使い方。痛みは我慢しなくてよいこと。
- 呼吸練習・咳の方法、足首の運動、早期離床の予定。
- 【胃】経鼻胃管が入る場合があること、食事の進み方と食べ方の変化。
- 【肺】胸腔ドレーンが入ること、ドレーンを引っ張らない動き方。
説明の進め方
- パンフレットやパスを見せながら、1日ずつ区切って説明する。
- ところどころで患者に言い直してもらい、理解を確かめる。
- 呼吸練習器や咳の方法は、その場で実際にやってもらう。
- 不安なこと、聞き足りないことを最後に尋ね、医師に伝えることは伝える。
- 説明した内容と患者の反応を記録する。
術前処置の内容と目的
| 処置 | 目的と内容 |
|---|---|
| 禁煙・呼吸練習 | 術後肺合併症の予防。喫煙者は少なくとも手術1週間前から禁煙[2] |
| 消化管処置(胃) | 指示された絶食・飲水制限、下剤・浣腸。術中の嘔吐・誤嚥と、腸内容による汚染を防ぐ |
| 臍処置(腹部) | 臍の汚れを、オリーブ油などでやわらかくして取る。創感染の予防 |
| 皮膚の清潔 | 前日の入浴・シャワー。除毛は必要な場合だけ、カミソリを使わずクリッパーで行う |
| 内服の調整 | 抗血栓薬・糖尿病薬などの休薬、降圧薬の継続・中止の指示を確かめる |
| 血栓予防 | 弾性ストッキングのサイズ測定と着用、足首の運動の練習 |
| 当日の準備 | 本人確認、義歯・眼鏡・補聴器・装飾品・マニキュアの除去、術衣への更衣、出棟前のバイタルサイン測定 |
処置の手順
臍処置
- 目的を説明し、仰臥位で腹部だけを出す。バスタオルで覆い、保温とプライバシーを守る。
- 綿棒にオリーブ油などをつけ、臍のくぼみに当てて汚れをふやかす。
- しばらく置いてから、新しい綿棒で奥から外へ、力を入れずに汚れを取る。
- 残った油をふき取り、皮膚の発赤や傷がないかを見る。
強くこすると皮膚に傷ができ、かえって感染の原因になる。
クリッパーによる除毛
- 医師の指示で範囲を確かめる。毛が手術の邪魔になるときだけ行う。
- 皮膚を軽く張り、毛の流れに沿ってクリッパーを当てる。
- 切った毛をテープなどで取り除き、皮膚の傷や発赤を見る。
カミソリは目に見えない細かい傷をつくり、そこで細菌が増えるので使わない。
弾性ストッキング
- 足首・ふくらはぎの周囲などを測り、サイズを選ぶ。
- ストッキングを裏返してかかとまで入れ、かかとの位置を合わせてから上へ伸ばす。
- しわやねじれ、上端の丸まりがないかを確かめる。
- 定期的に脱いで、皮膚の発赤、圧迫の跡、足の色と温かさを見る。
しわや丸まりはその部分だけを強く締めつけ、血流障害や皮膚の傷をつくる。
消化管処置(胃の手術)
- 絶食と飲水を止める時刻、下剤や浣腸の有無を、指示で確かめる。時刻は施設で違うので、空欄のまま患者の指示を写す。
- 目的(嘔吐と誤嚥を減らす、腸の中を空にして汚染を減らす)を説明してから始める。
- 下剤や浣腸は指示の範囲で行い、腹痛、嘔吐、ふらつきが出たら中断して報告する。
- 終了時刻と、吐き気の有無を記録する。出棟前にもう一度、指示の時刻以降に飲食していないかを本人に言ってもらう。
手術当日の出棟前
- 本人確認(リストバンド、名乗ってもらう)と、手術部位のマーキングを確かめる。
- 絶飲食が守られているか、内服の指示どおりかを確かめる。
- 義歯・眼鏡・補聴器・装飾品・マニキュア・化粧を外す。コンタクトレンズも外す。
- 排尿を済ませ、術衣と弾性ストッキングを着ける。
- バイタルサインを測り、いつもと違う点があれば報告する。
- カルテ・同意書・持参物をそろえ、手術室へ申し送る。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(術後患者のイメージ)
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』第2章3 pp.55–58
Ⅱ4 術前アセスメントシートの作成
様式の構成
シートは機能ごとに1枚で、呼吸機能、循環機能、止血機能、肝機能、腎機能、内分泌機能、免疫機能、栄養状態、その他の9つに分かれている。1機能につき2ページ以内で書く[1][2]。
どの機能も、①問診・身体所見、②血液・尿検査、③生理検査・画像検査・他、アセスメント、術前処置・ケアの5欄でできている[2]。
書き方の決まり
- ①〜③:検査などの項目を列挙して( )を設け、受持ち患者の数値を書くスペースを作る[1]。
- アセスメント:その機能が悪い場合に、術中・術後に何が起こる可能性があるかを書く。術式を理解したうえで書く(授業では「肺がん手術では胆汁漏のリスクはほぼない」と指摘されている)[3]。
- 術前処置・ケア:一般的な処置・ケアを書いておく(臍処置、消化管処置など)[1]。
- 患者の個人情報(氏名、年齢、イニシャル、病棟名、入院日・手術日など)は書かない[2]。
機能ごとの読み方
| 機能 | ①問診・身体所見 | ②③検査 | アセスメントの軸 |
|---|---|---|---|
| 呼吸 | 喫煙歴(ブリンクマン指数)、呼吸器疾患、咳・痰、呼吸数、呼吸音、SpO2、Hugh-Jones分類 | %VC、FEV1.0%、PaO2、PaCO2、胸部X線・CT | 無気肺・肺炎の起こりやすさ。【肺】残る肺で足りるか |
| 循環 | 心疾患・高血圧の既往、動悸・胸痛、NYHA分類、血圧・脈拍、浮腫 | 心電図、心エコー、胸部X線 | 術中の低血圧・不整脈、術後の心不全・肺水腫 |
| 止血 | 抗血栓薬の内服、出血しやすさ | PLT、PT-INR、APTT | 術中・術後の出血、硬膜外麻酔の可否 |
| 肝 | 飲酒歴、肝疾患の既往、黄疸 | AST、ALT、T-Bil、Alb、ChE、肝炎ウイルス | 麻酔薬の代謝、出血、術後の肝機能悪化 |
| 腎 | 腎疾患の既往、尿量、浮腫 | BUN、Cre、eGFR、尿たんぱく | 薬の排泄、術後の急性腎不全 |
| 内分泌 | 糖尿病の有無と治療、甲状腺疾患 | 血糖、HbA1c、尿糖・尿ケトン体 | 感染、創傷治癒の遅れ、術中・術後の血糖変動 |
| 免疫 | 感染症の既往、ステロイドや免疫を抑える薬、化学療法歴 | WBC、CRP、感染症検査 | 術後感染(SSI・肺炎・カテーテル感染) |
| 栄養 | 食事量、体重の変化、BMI、嚥下 | TP、Alb、Hb、リンパ球数 | 創傷治癒、感染への抵抗力。【胃】術後の摂取量の低下 |
| その他 | ADL、認知機能、睡眠、不安、家族の支援、アレルギー | — | せん妄、転倒、離床の遅れ、退院後の生活 |
出典:[1][2][4]をもとに整理
機能が悪いと、術中・術後に何が起きるか(竹内 p.66 より)
| 機能 | 術中・術後に起こること |
|---|---|
| 肝機能 | 手術中の出血などで肝血流が減り、肝機能が悪影響を受ける。肝細胞が壊れている状態では麻酔薬で肝障害が悪化しやすい。凝固因子が足りず出血しやすい。肝炎・肝硬変・脂肪肝・閉塞性黄疸は、どの術式でも術後の肝機能悪化の危険因子 |
| 腎機能 | 慢性糸球体腎炎・ネフローゼ症候群・水腎症・腎硬化症がある人は、手術の出血などで腎血流が減ると急性腎不全に陥る危険があり、術前からの対策が必要 |
| 止血機能 | 手術は病巣周囲の組織や血管を傷つけ切るので、凝固・止血機能が低いと出血が増える |
| 栄養状態 | 手術のストレスへの神経内分泌反応(たんぱく異化など)を経て回復に向かうが、低栄養ではこの過程に障害が出て順調に回復しにくい。感染への抵抗力・免疫能が落ち、創傷治癒が遅れる。高齢者や消化器の悪性疾患の人は低栄養が多い |
出典:[4] p.66
低栄養の指標
| 指標 | 目安 |
|---|---|
| BMI | 18.5未満やせ、18.5〜25未満標準、25〜30肥満、30以上高度肥満 |
| 体重減少 | 6か月以内の10%以上の減少は中等度以上の栄養障害 |
| リンパ球数 | 1,500/μLで低栄養と判定 |
| 身体計測 | 上腕周囲長・下腿周囲長 |
出典:[4] p.67
アセスメントの書き方の例
書き方の型:「(受持ち患者のデータ)から、(機能)は(保たれている/低下している)。(術式・麻酔)により(何が起こる)可能性がある。そのため(術前処置・ケア)が必要である。」
例(呼吸・肺がん):「%VC( )%、FEV1.0%( )%、喫煙指数( )から、閉塞性換気障害の(有・無)。肺葉切除と分離肺換気で、術後に無気肺・肺炎の可能性がある。そのため術前から禁煙の継続と、呼吸練習器を使った深呼吸・咳の練習が必要である。」
例(栄養・胃がん):「Alb( )g/dL、6か月の体重変化( )%、食事摂取量( )から、栄養状態は( )。胃切除で術後しばらく経口摂取が限られ、創傷治癒の遅れと縫合不全・感染の可能性がある。そのため術前の栄養状態の把握と、術後の栄養方法の確認が必要である。」
機能が悪いと、何が起きるかの続き
アセスメント欄は「検査が悪い」で終わらせない。その機能が、この術式のどの場面で破綻するかを書く。関係ない合併症を書くと、術後に見る場所がずれる。肺の手術で胆汁漏を挙げるのが、その例である[3]。
| 機能 | 悪いときに、術中・術後で起きること |
|---|---|
| 呼吸 | %VC 80%以下は肺が広がりにくい。1秒率70%以下は吐ききれない。Hugh-Jones Ⅳ度以上は術後の呼吸器合併症が多い。肺葉切除と分離肺換気では、残る肺と、しぼませていた肺の再膨張で換気を賄う。痰が出せなければ無気肺から肺炎になる。胃の手術でも、上腹部の創の痛みで同じ無気肺が起きる |
| 循環 | 麻酔と出血と硬膜外で血圧が下がり、痛みと覚醒で上がる。NYHA Ⅳ度はⅠ度より術後肺水腫が8倍多い。肺を切ると血管床が減るので、弱い心機能に利尿期の水分が戻ると、残った肺に水がたまりやすい。1か月以内の心筋梗塞は手術の禁忌として扱う |
| 内分泌 | 侵襲で血糖が上がり、インスリンが効きにくくなる。術後2〜3日に血糖が上がりやすい。高血糖は白血球の働きを落とし、創の治りと感染に直結する。糖尿病のある人は変動が大きいので、術前の治療内容と、術後の測定の間隔を確かめる |
| 免疫 | ステロイド、化学療法、低栄養、喫煙は、創と肺とカテーテルの感染を同時に上げる。消化管を開ける胃の手術は、開けない手術より手術部位感染の条件が重い |
呼吸・循環の区切りとNYHAの8倍、内分泌の術後2〜3日は、Ⅱ-2とⅢと竹内の記載に合わせてある。患者の数値は( )に入れ、区切りを超えているかどうかで「起きうる」を書く。
参考文献
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅱ.4.術前アセスメントシートの作成」
- 成人看護学実習Ⅰ 実習記録「術前アセスメントシート」様式(各機能のヘッダー・フッター)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(術前アセスメントの例)
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』第2章3 pp.49–68
第6章学習ノート
Ⅲ 侵襲と麻酔
この章で見ること
なぜこの章か。切ると、水はいったん血管の外へ出る。尿が少ないのを見て、先に水を足さない。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅲ手術・麻酔による生体侵襲 1 侵襲に対する生体反応(1)神経・内分泌・炎症反応
手術侵襲を受けると、体は神経・内分泌反応と炎症反応で、生命を守り回復に向かおうとする。この反応は体を守るためのものだが、強すぎたり長引いたりすると術後合併症の原因になる。
全体の流れ
手術侵襲
組織の損傷・出血・痛み・不安・麻酔
組織の損傷・出血・痛み・不安・麻酔
↓
神経・内分泌反応
交感神経、ホルモン
交感神経、ホルモン
+
炎症反応
サイトカイン
サイトカイン
↓
循環・代謝・体液の変化
下向きの矢印は、上から下への順番である。横のプラスは、神経・内分泌反応と炎症反応が同時に起こることを示す。
神経・内分泌反応(ホルモンの変化)
痛みや出血などの刺激が脳に伝わり、交感神経が働く。副腎髄質からカテコラミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)が出て、心拍数と血圧を保とうとする[1][2]。
視床下部・下垂体を通じて副腎皮質からコルチゾールが出る。膵臓からはグルカゴンが増え、インスリンは効きにくくなる[1][2]。
下垂体後葉から抗利尿ホルモン(ADH)が出て、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系も働く。腎血流と尿量が減り、体は水とナトリウムを保とうとする[1][2]。
| ホルモン | 増えると起こること |
|---|---|
| カテコラミン | 頻脈、血圧上昇、血糖上昇、末梢血管の収縮 |
| コルチゾール | 血糖上昇、たんぱく質の分解、炎症の抑制 |
| グルカゴン | 血糖上昇(糖新生) |
| ADH | 水の再吸収、尿量減少 |
| アルドステロン | ナトリウムと水の再吸収、カリウムの排泄 |
出典:[1][2]
サイトカイン誘発反応
傷ついた組織からサイトカインが出て、発熱やCRPの上昇を起こす[1][2]。術後早期の発熱は、この反応による吸収熱であることが多い。
サイトカインは血管透過性を上げる。水分が血管の外(サードスペース)へ移るので、循環血液量が減り血圧が下がる[1][2]。
体液の移動
術直後は、出血、サードスペースへの移動、ADH・アルドステロンの働きで、尿量が少なくなる。
侵襲がおさまるとサードスペースの水分が血管内に戻り、尿量が増える(利尿期)。心機能・腎機能が弱い人では、このとき心不全や肺水腫に注意する。
肺の手術で特に注意する理由肺を切除すると肺の血管床が減る。利尿期に血管内に戻った水分や輸液の過剰が重なると、残った肺に水がたまりやすい(Ⅰ-3 肺水腫)。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年7月10日講義(手術侵襲による変化、循環血液量が減少する理由、血糖管理)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(術後循環血液量低下の機序)
Ⅲ1 侵襲に対する生体反応(2)代謝系の反応・Mooreの分類
代謝系の反応
水・電解質
ADHとアルドステロンで水とナトリウムが保たれ、カリウムは出ていく。術後は尿量0.5〜1.0mL/kg/時以上を保つよう輸液する[1]。
胃の手術では胃管の排液や嘔吐で水分と電解質が失われる。消化管に流れ込む水分は1日約9Lあり、腸が止まるとその吸収も滞る[2]。
糖代謝
糖新生が進み、インスリンが効きにくくなるので血糖が上がる。授業では術後2〜3日に血糖値が上がるとしている[1]。
高血糖は感染と創傷治癒の遅れにつながる。糖尿病のある人は、術後の血糖の変動が大きい(Ⅶ-3 簡易血糖測定)。
たんぱく代謝
筋肉のたんぱくが分解され(異化)、エネルギーや修復の材料に使われる。術後2〜3日はアルブミン値・総たんぱく値が下がる[1]。
筋肉が減ると、離床や咳の力が落ちる。早期離床と栄養が回復を支える。
脂質代謝
脂肪が分解されてエネルギー源になる。回復の後半には、脂肪が再び蓄えられて体重が戻る。
生体反応の経過(Mooreの分類)
| 相 | 特徴 | 看護の視点 | 期間 |
|---|---|---|---|
| 第1相 傷害期 | 神経・内分泌反応が強い。尿量減少、発熱、頻脈、血糖上昇、たんぱく異化、腸の動きの低下。痛みが強く、活動が少ない | 循環血液量、疼痛、呼吸、出血 | 術後数日(おおむね2〜4日) |
| 第2相 転換期 | 内分泌反応がおさまり、尿量が増え(利尿期)、腸が動き出し、痛みが落ち着いて意欲が出る | 水分出納、心肺への負担、離床の拡大 | 傷害期に続く数日 |
| 第3相 筋力回復期 | たんぱく合成が進み、筋力が戻る | 食事・栄養、活動量 | 数週間 |
| 第4相 脂肪蓄積期 | 脂肪が蓄えられ、体重が戻る | 退院後の生活・栄養 | 数週〜数か月 |
期間は、周手術期看護の教科書で広く使われる目安である。教科書によって日数の区切りは少しずれる。侵襲の大きさ、年齢、合併症で期間は変わる。
周術期の区分では、術直後〜2日目を術後障害期、術後3〜10日を転換期〜退院としている[3]。
受持ち患者で見るサイン
- 傷害期が続いているサイン:尿量が少ない、頻脈、発熱が続く、腸が動かない、痛みが強い。
- 転換期に入ったサイン:尿量が増える、排ガス、痛みが減る、食べたい・歩きたいという言葉。
- 注意すること:転換期に入る時期に発熱や炎症データが再び上がれば、縫合不全・感染などの合併症を考える。
尿が少ないとき、水を足す前に分ける
傷害期の尿量減少は、出血、サードスペースへの移動、ADHとアルドステロンが水を保とうとする結果である。目標は 0.5〜1.0mL/kg/時以上になるよう輸液することだが、尿が少ないという一事で輸液を増やすと、原因を見誤る。
出血ならドレーンとHbと頻脈が先に動く。サードスペースなら血圧が下がり、むくみと体重が増える。ADHが効いているだけなら、血圧が保たれたまま尿だけが少ない。カリウムはアルドステロンで出ていくので、胃管や嘔吐が重なる胃の手術では低カリウムが腸の動きをさらに止める。
転換期に入って尿が増えるのは、血管の外に出ていた水が戻ってきたサインである。ここで入る水分が多いと、心機能と腎機能が弱い人は心不全と肺水腫になる。肺を切った人は血管床が減っているので、同じ量の戻りでも残った肺に水がたまりやすい。傷害期の「尿が少ないから足す」と、転換期の「戻りすぎを見る」は、反対の判断である。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年7月10日講義(手術侵襲による変化、血糖管理、輸液)
- [内]第10章 総論「消化吸収」p.298
- 周術期の時期の区分(術直後〜2日目、術後3〜10日)
Ⅲ1 侵襲に対する生体反応(3)創傷治癒の経過
一次治癒と二次治癒
手術創のように、きれいに縫い合わされ、感染のない創は一次治癒で治る。創の縁がぴったり合うので、肉芽が少なく、瘢痕も小さい。
感染したり開いたりした創は、肉芽で底から埋まっていく二次治癒になり、時間がかかり瘢痕も大きくなる。
一次治癒の4つの時期
| 時期 | 起きていること | 見た目・看護 | 時間 |
|---|---|---|---|
| 出血・凝固期 | 血管が収縮し、血小板が集まり、凝固して止血する。フィブリンの網で創がふさがる | 創からの出血、ガーゼの汚染 | 直後〜数時間 |
| 炎症期 | 好中球・マクロファージが集まり、細菌や壊死組織を取り除く。マクロファージが次の時期に必要な物質を出す | 発赤・腫脹・熱感・疼痛が出る。感染との区別が必要 | 約1〜3日 |
| 増殖期 | 線維芽細胞がコラーゲンを作り、肉芽組織と新しい血管ができ、上皮が創を覆う | 創がくっつき、発赤が落ち着く | 約3日〜3週 |
| 再構築期(成熟期) | コラーゲンが整い、瘢痕が強く、目立たなくなっていく | 退院後も続く。創の引きつれ | 数週〜1年 |
時間は一次治癒の一般的な経過である。感染や低栄養があると、炎症期が長引いてこの通りに進まない。
治癒を遅らせる要因
| 要因 | しくみ |
|---|---|
| 低栄養 | コラーゲンを作る材料(たんぱく質)が足りない |
| 高血糖 | 白血球の働きが落ち、感染しやすい |
| 喫煙 | 血管が収縮し、創への酸素が減る |
| ステロイド | 炎症期が抑えられ、次の時期に進みにくい |
| 感染 | 炎症期が長引き、二次治癒になる |
| 血流不足・圧迫 | 酸素と栄養が届かない |
これらはⅡ章の栄養・内分泌・免疫のアセスメントと結びつける。胃がんの人は低栄養、肺がんの人は喫煙歴に注意する。
創の観察
- 発赤・腫脹・熱感・疼痛が、日を追って落ち着いていくか、強くなっていくか。
- 滲出液の量・色・におい。膿性やにおいがあれば手術部位感染(SSI)を疑う。
- 創の縁が開いていないか。
- 発熱、WBC・CRPの推移と合わせて見る。
炎症期の発赤と熱感は、治っている最中の所見でもある。約1〜3日で出てきて、その後は日ごとに薄くなるなら、この経過の中にいる。3日を過ぎて赤みが広がり、痛みが増し、滲出液が膿になり、においがつき、創の縁が開けば、炎症期が長引いて感染に入っている。熱とCRPが一度下がってから再び上がるのも、治りの熱ではなく感染の側である。低栄養と高血糖と喫煙は、この境目を後ろへずらす。胃の人はアルブミン、肺の人は喫煙の続きを、創の所見と並べて見る。
Ⅲ2 麻酔による影響と援助(1)麻酔の目的・種類・薬剤
麻酔の目的
麻酔の目的は、痛みを取る(鎮痛)、意識をなくす(鎮静)、筋肉をゆるめる(筋弛緩)、有害な反射を抑えることである。
麻酔の種類
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 全身麻酔 | 吸入麻酔薬または静脈麻酔薬で意識をなくし、麻薬性鎮痛薬と筋弛緩薬を組み合わせる。気管挿管して人工呼吸を行う |
| 硬膜外麻酔 | 硬膜外腔にカテーテルを入れ、局所麻酔薬や麻薬を入れる。術後鎮痛(PCA)にも使う。授業事例はTh6/7から入れていた[1] |
| 脊髄くも膜下麻酔 | くも膜下腔に局所麻酔薬を入れ、下半身を麻酔する |
| 局所浸潤麻酔 | 手術する部分の皮膚や組織に局所麻酔薬を注射する。気管支鏡ではリドカインを噴霧する[2] |
胃・肺の手術は、全身麻酔に硬膜外麻酔を組み合わせることが多い。硬膜外カテーテルは術後の鎮痛に使い、深呼吸・咳・離床を助ける。
分離肺換気のための挿管(肺)
肺の手術では、左右の肺を別々に換気できる管を入れ、手術側の肺をしぼませる(Ⅰ-3)。反対側の肺だけで換気するので、術中に低酸素になりやすい。
全身麻酔で使う主な薬
| 分類 | 代表的な薬 | 作用と注意する副作用 |
|---|---|---|
| 吸入麻酔薬 | セボフルラン、デスフルラン | 意識をなくす。血圧低下、術後の悪心・嘔吐 |
| 静脈麻酔薬 | プロポフォール | 導入・維持に使う。血圧低下、呼吸抑制 |
| 麻薬性鎮痛薬 | フェンタニル、レミフェンタニル | 強い鎮痛。呼吸抑制、悪心・嘔吐、腸の動きの低下、かゆみ |
| 筋弛緩薬 | ロクロニウム | 挿管と手術のために筋肉をゆるめる。効果が残ると術後の呼吸が弱い |
| 筋弛緩拮抗薬 | スガマデクス | ロクロニウムの作用を打ち消す |
| 局所麻酔薬 | リドカイン、ロピバカインなど | 神経の伝導を止める。血中濃度が上がると局所麻酔薬中毒(口のしびれ、けいれん、不整脈) |
受持ち患者で使われた薬は、麻酔記録で確かめ、添付文書で作用・副作用を調べる[1]。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(まとめ(術中看護)、医薬品添付文書検索ワーク)
- [内]第9章 総論「気管支鏡検査」
Ⅲ2 麻酔による影響と援助(2)麻酔の合併症①〜⑤
①意識:麻酔覚醒遅延
機序・原因:麻酔薬・鎮痛薬が体に残る。肝・腎機能が低い人や高齢者で起こりやすい。低体温、低血糖、電解質異常、低酸素・高二酸化炭素も原因になる。
モニタリングと異常のサイン:意識レベル、呼びかけへの反応、瞳孔、呼吸、体温、血糖。呼びかけても目を開けない、反応が鈍い状態が続く。
治療・看護:呼びかけへの反応を繰り返し確かめ、原因(体温・血糖・血液ガス)を医師と探す。気道を確保し、保温する。
②呼吸:気道閉塞・低酸素血症
機序・原因:舌根沈下による気道閉塞、分泌物、喉頭けいれん。筋弛緩薬の残り、麻薬による呼吸抑制で換気が減り、低酸素血症になる。
モニタリングと異常のサイン:SpO2、呼吸数、胸郭の動き、いびき様の音、陥没呼吸、チアノーゼ。PaCO2が上がると意識が悪くなる(CO2ナルコーシス)[1]。
治療・看護:下顎挙上などで気道を確保し、酸素を投与し、すぐ報告する。深呼吸を促し、分泌物を吸引する。
③循環:低血圧・高血圧・不整脈
機序・原因:麻酔薬の血管拡張・心抑制、出血、硬膜外麻酔の交感神経遮断で低血圧になる。痛み、覚醒時の興奮、尿閉で高血圧になる。低酸素・電解質異常・痛み・低体温で不整脈(徐脈・頻脈・期外収縮)が出る。
モニタリングと異常のサイン:血圧、脈拍、心電図、尿量、出血、末梢の冷感。
治療・看護:原因ごとに対応する。出血の確認、輸液、痛みの緩和、保温。薬の投与は医師の指示で行う。
④代謝:低体温・シバリング
機序・原因:麻酔で体温調節が抑えられ、血管が広がって体の中心の熱が手足へ移る。手術室の室温、開腹・開胸、冷たい輸液でも熱が逃げる。
モニタリングと異常のサイン:体温、ふるえ(シバリング)、皮膚の冷感。シバリングは酸素消費を増やし、心臓と肺に負担をかける。
治療・看護:掛け物や加温装置で保温する。輸液を温める。低体温は覚醒遅延、出血、感染にもつながる。
⑤局所麻酔(硬膜外麻酔・脊髄くも膜下麻酔)の合併症
| 合併症 | 機序 | 観察と看護 |
|---|---|---|
| 血圧低下 | 交感神経が遮断され、血管が広がる | 血圧、めまい。離床時の起立性低血圧に注意 |
| 呼吸抑制 | 麻酔の範囲が上に広がる、麻薬の作用 | 呼吸数、SpO2、麻酔の効いている範囲 |
| 硬膜穿刺後頭痛 | 髄液が漏れる | 座ると強くなる頭痛 |
| 硬膜外血腫・膿瘍 | 出血・感染で脊髄が圧迫される | 下肢の麻痺・しびれ、背部痛。止血機能と抗血栓薬が関係する |
| 尿閉 | 膀胱の神経が遮断される | 尿道カテーテル抜去後の排尿 |
| 局所麻酔薬中毒 | 血中濃度が上がる | 口のしびれ、耳鳴り、けいれん、不整脈 |
硬膜外カテーテルの刺入部は、発赤、液漏れ、固定のずれを毎日見る。下肢の動きとしびれは、麻酔が切れていく経過と合わせて確かめる。
帰室後に麻酔の影響を見る順番
| 順 | 見ること | つながる合併症 |
|---|---|---|
| A 気道 | いびき様の音、舌根沈下、分泌物 | ②気道閉塞 |
| B 呼吸 | 呼吸数・深さ、SpO2、胸郭の動きの左右差 | ②低酸素血症、無気肺 |
| C 循環 | 血圧・脈拍・不整脈、末梢の冷感、尿量、ドレーン排液 | ③低血圧・不整脈、術後出血 |
| D 意識 | 呼びかけへの反応、見当識、不穏 | ①覚醒遅延、せん妄 |
| E 体温・その他 | 体温、シバリング、悪心・嘔吐、痛み、下肢の動き・しびれ | ④低体温、⑤硬膜外の合併症 |
命に直結する順(気道→呼吸→循環→意識)に見ると、見落としが減る。悪心・嘔吐は吸入麻酔薬とオピオイドで起こりやすく、嘔吐すると誤嚥の危険があるので、顔を横に向けて吸引の準備をする。
参考文献
- [内]第9章 総論(血液ガス、CO2ナルコーシス)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(まとめ(術中看護))
第7章学習ノート
Ⅳ 手術室
この章で見ること
なぜこの章か。入室から帰室まで、名前・側・体位・神経を、手順の途中で落とさない。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅳ術中看護 1 手術体位
術中アセスメントシートと手術見学記録を理解するための学習である[1]。胃の手術は仰臥位、肺の手術は側臥位が基本なので、この二つを特に詳しく押さえる。
1)体位固定の目的・条件
体位固定の目的は、手術の視野を確保しながら、呼吸・循環を妨げず、皮膚と神経を傷つけず、安全に長時間保つことである。
- 手術:術野がよく見え、術者が操作しやすい。
- 呼吸:胸郭と横隔膜の動きを妨げない。
- 循環:大血管を圧迫せず、静脈の戻りを妨げない。
- 皮膚:骨の出たところに圧が集中しない。ずれを起こさない。
- 神経:神経を圧迫・伸展しない。関節を無理な角度にしない。
- 安全:麻酔で意識がなく、痛みを訴えられない患者の代わりに、転落や圧迫を防ぐ。
仰臥位(【胃】開腹・腹腔鏡)
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 呼吸・循環 | 腹部臓器が横隔膜を押し上げ、機能的残気量が減る。腹腔鏡では腹腔に気体を入れるので、さらに横隔膜が押し上げられる |
| 褥瘡の好発部位 | 後頭部、肩甲骨部、肘、仙骨部、踵 |
| 神経障害 | 腕を広げすぎると腕神経叢が伸びる。肘の内側の圧迫で尺骨神経(小指側のしびれ) |
| 工夫 | 腕を広げすぎないようにし、手のひらを上に向ける。仙骨部・踵に除圧具を使う。開脚位では膝の外側を圧迫しない |
側臥位(【肺】開胸・胸腔鏡、手術する側が上)
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 呼吸・循環 | 下側の肺は血流が多いのに、縦隔と腹部臓器に押されて換気されにくく、換気と血流のずれが起こる。分離肺換気で上側の肺をしぼませると、下側の肺だけで換気する |
| 褥瘡の好発部位 | 下側の耳介、肩峰、肋骨、腸骨、大転子、膝の外側、外果 |
| 神経障害 | 下側の腋の下の圧迫で腕神経叢。膝の外側(腓骨頭)の圧迫で腓骨神経(足首が上がらない、下垂足) |
| 工夫 | 下側の胸の下に枕を入れ、腋の下を浮かせる。両膝の間に枕を入れる。上側の腕は台に乗せ、引っ張られないようにする |
腹臥位(脊椎など)
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 呼吸・循環 | 胸・腹部の圧迫で換気と静脈還流が妨げられる |
| 褥瘡の好発部位 | 前額部、顔面、眼球、胸部、腸骨、膝、足の甲 |
| 神経障害 | 眼球の圧迫による視力障害。腕の位置による腕神経叢 |
| 工夫 | 胸と骨盤を支える台を使い、腹部が浮くようにする。顔と眼を圧迫しない |
砕石位(会陰・肛門の手術)
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 呼吸・循環 | 下肢を上げると静脈還流が増え、下ろすときに血圧が下がる。腹部臓器が横隔膜を押し上げる |
| 褥瘡の好発部位 | 仙骨部、踵、膝の裏 |
| 神経障害 | 膝の外側の圧迫で腓骨神経。股関節を曲げすぎると大腿神経・坐骨神経 |
| 工夫 | 左右の脚を同時にゆっくり上げ下ろしする。支脚器が膝の外側に当たらないようにする |
2)体位が呼吸・循環に与える影響(まとめ)
全身麻酔中は自分で体位を変えられず、筋肉もゆるんでいるので、体位の影響をそのまま受ける。呼吸では、横隔膜が押し上げられると機能的残気量が減り、肺の下の方がしぼみやすい。
循環では、大血管の圧迫と静脈の戻りの変化で血圧が変わる。体位を変えた直後は、血圧と SpO2 の変化に注意する。
3)褥瘡・神経障害のリスク(まとめ)
| 神経 | 原因 | 徴候 |
|---|---|---|
| 腕神経叢 | 腕の過度の外転、腋の下の圧迫 | 腕のしびれ、力が入らない |
| 尺骨神経 | 肘の内側の圧迫 | 小指・薬指のしびれ、手の力の低下 |
| 橈骨神経 | 上腕の外側の圧迫 | 手首が上がらない(下垂手) |
| 腓骨神経 | 膝の外側の圧迫 | 足首が上がらない(下垂足)、足の甲のしびれ |
術中のリスクとして、褥瘡、医療関連機器圧迫創傷(MDRPU)、神経障害、低体温、深部静脈血栓症、感染を予防する[2]。術後は、除圧した部位の発赤と、手足のしびれ・動きを帰室後すぐに確かめる。
帰室してすぐ、握る、手首を上げる、小指を開く、足首を上げる、の四つを見る。手首が上がらなければ橈骨神経、小指側がしびれれば尺骨神経、足首が上がらなければ腓骨神経、腕全体の力としびれなら腕神経叢である。硬膜外の麻酔が残っている下肢の力の低下と、腓骨神経の下垂足は両方とも足首が弱い。硬膜外は左右と感覚の帯で上から切れていく。腓骨神経は手術で下にした膝の外側に一致して、足首だけが上がらない。ここを分けないと、麻酔の残りだと思って神経の圧迫を見逃す。
側臥位では、下にした肺に血流が多く、同時に縦隔とお腹の臓器に押されて換気されにくい。手術中はその下側の肺だけで換気している。術後に頼りにするのは、切らなかった側の肺である。その肺を長く下にすると、また押されて換気しにくい。手術した側を下にすれば残った肺は上に来るが、創とドレーンを挟むので長くは置けない。どちらの側を下にするかは、ガス交換と、創の圧迫の両方で決める。
参考文献
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅳ.術中看護」
- 術中の学習の視点(体位、合併症予防、手術室、チーム医療)
Ⅳ2 手術室の構造・設備・環境 / 3 入室から退室・回復室までの流れと看護
2 手術室の構造・設備・環境
| 項目 | 内容と理由 |
|---|---|
| 区域 | 清潔区域と非清潔区域を分け、人と物の動線を区別する |
| 空調 | 高性能フィルターを通した清浄な空気を送る。室内を周りより陽圧にして、汚れた空気が入らないようにする |
| 室温・湿度 | 管理して低体温を防ぐ。加温装置を使う |
| 照明 | 無影灯で術野を影なく照らす |
| 設備 | 麻酔器、生体モニター、電気メス、吸引、医療ガスの配管 |
扉の開け閉めや人の出入りが多いと、陽圧が崩れて空気が乱れる。見学のときは、立つ位置と動線を指示に従って守る。
3 1)患者入室から病棟への引継ぎまで
- 入室:本人確認(名前、手術部位、同意書)。術前訪問で得た不安や身体の情報を確かめる。緊張をやわらげる声かけ。
- 麻酔導入:モニター装着、末梢静脈路、硬膜外カテーテル、気管挿管。【肺】分離肺換気用の管。
- 手術体位介助:除圧具で骨突出部を守り、神経を圧迫しない。
- 術中管理:バイタルサイン、出血量・尿量・輸液量、体温、手術の進行。
- 麻酔覚醒・抜管:呼吸・意識・筋力の戻りを確かめる。
- 回復室:呼吸、循環、意識、痛み、悪心、体温を見る。
- 病棟への引継ぎ:術式、出血量、IN-OUT、ドレーン・カテーテルの種類と位置、鎮痛法の設定、使用薬剤、術中の出来事。
授業の術中見学記録では、術前(出棟前)のバイタルサイン、硬膜外麻酔の有無と穿刺部位・挿入長さ、弾性ストッキングの着用、静脈麻酔薬、装着・挿入物(心電図、マンシェット、SpO2、末梢点滴、Aライン、硬膜外、膀胱カテーテル、間欠的空気圧迫装置)、出血量の計測方法を記録した[1]。
病棟で帰室を受けるときに見ること
- 意識レベル、呼吸(回数・深さ・SpO2)、血圧・脈拍、体温。
- 創部のガーゼ、ドレーンの排液の量と性状、固定。【肺】胸腔ドレーンの呼吸性移動とエアリーク。
- 点滴の内容と速度、硬膜外・PCAの設定。
- 尿量、痛み(NRS)、悪心、手足のしびれと動き、皮膚の発赤。
3 2)生体モニターと水分出納
| モニター | 目的 |
|---|---|
| 心電図 | 心拍数・不整脈・心筋虚血 |
| 血圧(マンシェット・Aライン) | 循環の変化を見る。Aラインでは連続して測れ、採血・血液ガスもできる |
| パルスオキシメーター | 酸素化(SpO2) |
| カプノメーター | 呼気の二酸化炭素。換気と挿管位置の確認 |
| 体温 | 低体温の早期発見 |
| 尿量 | 循環血液量と腎血流 |
| 筋弛緩モニター | 筋弛緩薬の効き具合。抜管前の回復の確認 |
IN-OUTの考え方:INは輸液・輸血、OUTは出血(吸引量とガーゼの重さ)・尿量・ドレーン排液・不感蒸泄・サードスペースへの移動。OUTに見えない分があることを踏まえ、血圧・脈拍・尿量と合わせて判断する。
術後も、IN(輸液・飲水・食事)とOUT(尿・ドレーン・胃管・嘔吐・便)を毎日まとめる。利尿期には OUT が増えるので、INとの差と体重の変化を合わせて見る。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(術中アセスメント・手術見学の記録)、実習記録 記載要領(成人Ⅰ-術中アセスメント/手術見学記録)
Ⅳ4 器械出し看護師・外回り看護師の役割とチーム医療 / 5 リスクマネジメント
4 器械出し看護師・外回り看護師
| 主な役割 | |
|---|---|
| 器械出し看護師 | 手術時手洗いをして清潔野に入る。器械・材料を準備し、手術の進行を先読みして医師に渡す。ガーゼ・器械・針のカウントを行う。摘出した組織を正しく扱う |
| 外回り看護師 | 清潔野の外で動く。患者の入室・体位固定・観察、麻酔の介助、記録、出血量・尿量の計測、物品の補充、家族への連絡、術前・術後訪問 |
チーム医療
チームは外科医・麻酔科医・看護師・臨床工学技士などで、術前の情報と術中の変化を共有して動く。
看護師は、患者の意識がないあいだ、患者の代わりに安全と尊厳を守る役割を担う。術前訪問で聞いた不安や希望を術中の看護に生かし、術後訪問で術中の看護を振り返る。
5 手術室のリスクマネジメント
患者誤認・手術部位の間違いの防止
本人に名乗ってもらい、リストバンドと照合する。手術部位にマーキングをし、執刀前に全員で手を止めて、患者・術式・部位を確認する(タイムアウト)。
【肺】左右を間違えやすいので、画像・同意書・マーキングを突き合わせる。術式を分かっていないと、マークが上葉なのか下葉なのか、開く肋間が合っているのかを、手を止めたときに言えない。タイムアウトは名前を読む作業ではなく、これから切る範囲を全員が同じ絵で持っているかの確認である。
感染管理
手指衛生、手術時手洗い、清潔操作、予防的抗菌薬の投与時刻の管理を行う。清潔野に触れたものは不潔として扱う。
体内異物残留の防止
ガーゼ・器械・針のカウントを、手術の始まり、体腔を閉じる前、閉創前などに行う。数が合わなければ閉創せず探し、必要ならX線で確かめる。
その他
- 体位による皮膚・神経障害(Ⅳ-1)。
- 電気メスによる熱傷(対極板の貼り方、アルコール消毒薬の乾燥)。
- 手術台からの転落、移動時のチューブ類の事故抜去。
- 薬剤・輸血の間違い(ダブルチェック)。
参考文献
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅳ.術中看護」
- 術中の学習の視点(体位、合併症予防、手術室、チーム医療)
第8章学習ノート
Ⅴ 痛み
この章で見ること
なぜこの章か。薬を足す前に、創の痛みか、神経の痛みか、お腹の中の痛みかを分ける。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅴ看護計画の立案 1 術後疼痛(1)影響・種類・鎮痛薬
1)痛みが体に及ぼす影響
| 系統 | 影響 |
|---|---|
| 循環器系 | 交感神経が刺激され、血圧上昇・頻脈で心臓の酸素消費が増える。心疾患のある人では心筋虚血につながる |
| 呼吸器系 | 深呼吸・咳が抑えられ、SpO2が下がり、無気肺・肺炎の原因になる[1] |
| 免疫系 | ストレスホルモンが続いて免疫が落ち、感染しやすくなる |
| 消化器系 | 交感神経の働きで腸の動きが落ち、麻痺性イレウスの要因になる |
| 精神面 | つらさ、不安、不眠、回復への意欲の低下。せん妄の要因にもなる[1] |
| 活動 | 離床が遅れ、合併症のリスクが上がる[1] |
痛みは一つの症状にとどまらず、呼吸・循環・消化・精神のすべてに波及する。だから術後疼痛は看護計画の#1になり、無気肺・離床の遅れ・イレウスの起点になる。
胃と肺での違い【胃】上腹部の創は、深呼吸で腹筋と横隔膜が動くたびに痛む。【肺】開胸創とドレーン刺入部は、咳と体の向きを変える動きで痛む。どちらも「痛いから呼吸が浅くなる」が無気肺の入口になる。
2)疼痛の種類とその特徴
| 種類 | 原因 | 性状・経過 |
|---|---|---|
| 侵害受容性疼痛 | 切開した皮膚・筋肉など組織の損傷 | ズキズキする、動くと強くなる。創が治るにつれてやわらぐ |
| 神経障害性疼痛 | 神経そのものの損傷 | ビリビリ・ジンジン・しびれ・焼けるような感じ。長引くことがある |
出典:[2][3]
【肺】肋間神経の損傷による痛みが神経障害性疼痛の代表で、雨の日や冷えたときに痛み、鉄板を入れられたような感じがすることもある[3]。
授業では、心因性疼痛も含めて分類し、発症時期、進み方、性状、程度、部位・放散、強くなる・楽になるきっかけ、随伴症状の7つの視点で聞くとしている[2]。
腹痛の分類(胃の手術後に見分ける)
| 種類 | しくみと特徴 |
|---|---|
| 内臓痛 | 胃などの急な伸展・けいれん・炎症・虚血による。自律神経を介して感じ、部位がはっきりせず、腹部の中心線に感じる |
| 体性痛 | 腹膜や腸間膜の炎症・刺激による。場所がはっきりしていて、体を動かすと強くなる |
| 関連痛 | 放散痛ともいう。臓器の病気が、決まった皮膚の場所に痛みとして感じられる |
出典:[4] p.299
創の痛みとは別に、腹部全体の鈍い痛みや張りは腸管麻痺を、限られた場所の強い痛みや反跳痛は腹膜炎(縫合不全)を考える手がかりになる[4]。
鎮痛を足す前に、痛みの種類を言う。動くと創がズキズキし、安静と創を押さえると楽なら侵害受容性で、硬膜外や内服の追加を考える。ビリビリ、焼ける感じ、天気で変わる胸の痛みは、肺では肋間神経の損傷で、薬の種類が変わる。お腹の限られた場所が板のように硬く、熱と排液の変化がそろう痛みは、創の痛みではなく腹膜炎なので、鎮痛の前に経口を止めて報告する。七つの聞き方(いつから、どこが、どんな感じか、どれくらいか、何をしていたときか、何で楽か、ほかの症状)を一つでも飛ばすと、この三つが同じ「痛い」にまとまってしまう[2]。
3)鎮痛薬の作用と副作用
| 分類 | 作用 | 副作用・注意 |
|---|---|---|
| オピオイド(フェンタニルなど) | 鎮痛作用と催眠作用をもつ[2] | 呼吸抑制、悪心・嘔吐、眠気、かゆみ、便秘・腸の動きの低下、尿閉 |
| 局所麻酔薬(硬膜外) | 神経の伝わりを止める。授業事例はポプスカイン0.25%[5] | 血圧低下、下肢のしびれ・力の入りにくさ、尿閉、局所麻酔薬中毒 |
| NSAIDs(ロキソプロフェン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン アキセチル) | プロスタグランジンの生成を抑え、鎮痛・抗炎症・抗血小板作用をもつ[2] | 胃の粘膜を守る物質も減るので胃が荒れやすい。腎機能の低下、出血。腎機能が低い人には使いにくい |
| アセトアミノフェン | 抗炎症作用・抗血小板作用はなく、胃の不快感も起こしにくい[2] | 肝機能障害 |
【胃】の手術後は、NSAIDsによる胃粘膜の障害と、吻合部への影響も考える。オピオイドの腸への作用は、麻痺性イレウスの要因になる。
がんの痛みの治療(WHO方式)
がんの痛みには、世界保健機関(WHO)の治療指針がある[6]。術後疼痛とは別の考え方だが、がんの患者を受け持つので押さえておく。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 治療目標 | 第1目標:痛みに妨げられない睡眠。第2目標:安静時の痛みの消失。第3目標:起立時や体動時の痛みの消失 |
| 3段階ラダー | 第1段階:非オピオイド鎮痛薬。第2段階:弱オピオイド。第3段階:強オピオイド |
| 5原則 | ①経口薬が基本(by the mouth)②時間を決めて定期的に(by the clock)③除痛ラダーにそって効力順に(by the ladder)④状況に応じた個別対応(for individual)⑤細やかな配慮(with attention to detail) |
出典:[6] p.280
「時間を決めて定期的に」の考え方は、術後に痛みが強くなる前に鎮痛薬を使う先制鎮痛(5))とつながる。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年7月10日講義(疼痛の変化に注意する理由と観察・対処)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(疼痛のリスクに関する情報、オピオイドと非オピオイド、NSAIDs、PCA)
- 日本肺癌学会「患者さんと家族のための肺がんガイドブック 2024年版」Q62 https://www.haigan.gr.jp/public/guidebook/2024/2024/Q62.html
- [内]第10章 総論「3.症状 a.腹痛」p.299
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義「まとめ(術中看護)」、5月28日講義(中村さんの経過)
- [内]第9章 呼吸器疾患「WHO癌性疼痛治療法」p.280
Ⅴ1 術後疼痛(2)デルマトーム・鎮痛法・要因・評価・緩和
4)皮膚知覚帯(デルマトーム)
皮膚の感覚は、脊髄神経ごとに受け持つ帯(デルマトーム)が決まっている。硬膜外カテーテルの位置と、麻酔が効いている範囲(冷たさを感じない範囲)を、この帯で確かめる。
【肺】の開胸創は胸部に、【胃】の上腹部の創はみぞおちから臍の間にある。創の高さに麻酔が効いているかを見る。授業事例の硬膜外カテーテルはTh6/7から入れていた[1]。
体表の目印と脊髄神経の対応は、解剖学のデルマトーム図で標準的に次のとおりである。図によって1髄節ずれることがある。
| 体表の目印 | 神経の高さ |
|---|---|
| 乳頭 | Th4 |
| みぞおち(剣状突起) | Th6(図によりTh7) |
| 臍 | Th10 |
| 受持ち患者の創 | 受持ちが決まってから記入 |
効いている範囲の確かめ方
- 保冷剤やアルコール綿を、麻酔が効いていない場所(顔や腕)に当て、冷たさを覚えてもらう。
- 体の中心から上下に当てていき、冷たさを感じにくい範囲を確かめる。
- 左右差、創の高さが入っているか、範囲が上に広がりすぎていないかを記録する。
5)先制鎮痛法・患者管理鎮痛法(PCA法)
先制鎮痛は、痛みが強くなる前に鎮痛を始めておくことで、痛みを感じやすくなるのを防ぐ考え方である。術後も、離床や咳の練習の前に、効果が出る時間に合わせて鎮痛薬を使う。
PCAには、一定量を入れ続ける持続投与、ボタンを押すと決まった量が1回入る臨時投与、前回の投与から一定時間は入らないロックアウト時間の3つの機能がある[2]。
使用時の変化・回数・効果を聞き、刺入部、薬剤の残量、副作用を観察する。患者に誤解があれば効果を説明する[2]。授業事例の設定は、持続5mL/時、1回3mL、ロックアウト30分だった[1]。
ロックアウト時間があるので、押しすぎても過量にならないしくみになっている。「押すと癖になる」「我慢した方がよい」と思っている患者には、このしくみを伝える。
6)痛みに影響する要因
| 要因 | |
|---|---|
| 痛みを感じやすくする(閾値を下げる) | 不安、恐怖、不眠、疲労、孤独感、怒り、痛みへの誤解 |
| 痛みを感じにくくする(閾値を上げる) | 十分な睡眠、不安の軽減、共感、気分転換、症状の説明、鎮痛薬 |
がんの告知後の不安や、術後の見通しが分からないことも閾値を下げる。痛みの訴えには、体の痛みと心の痛みの両方が入っていると考えて聞く(Ⅷ)。
7)痛みの評価スケール
| スケール | 使い方 |
|---|---|
| NRS | 0(痛みなし)〜10(考えられる最大の痛み)の11段階で、数字を答えてもらう |
| VAS | 線の左端を痛みなし、右端を最大として、今の痛みの位置に印をつける |
| フェイススケール | 表情の絵から選ぶ。数字で答えにくい人、高齢者に使う |
同じ人には同じスケールを使い、安静時と動いたとき・咳のときを分けて評価する。鎮痛薬を使ったら、効果が出る時間に再び評価して記録する。
8)鎮痛薬以外の痛みの緩和方法
- 創を守る:創部を手や枕で押さえた咳、腹部の緊張をゆるめる体位(膝を軽く曲げる)。
- 動き方:側臥位を経由した起き上がり、ベッド柵やベッドの背上げを使う。
- 管の工夫:ドレーン・チューブの固定を工夫し、引っ張られる痛みを減らす。
- 温める・さする:温罨法(許可があるとき)、マッサージ。
- 心を落ち着ける:リラクセーション、呼吸法、音楽や会話による気分転換。
- そばにいる:十分な説明と、そばにいること。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義「まとめ(術中看護)」、5月28日講義(中村さんの経過)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(PCA)
第9章学習ノート
Ⅴ 合併症の見分け
この章で見ること
なぜこの章か。出血、血栓、無気肺、腸、感染は同時に進む。一つの数値で名前を決めない。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅴ2 術後合併症(1)循環器系・呼吸器系
各合併症を、定義・発生機序、症状・徴候、好発時期、リスク因子、治療、看護の順にまとめる[1]。
1)循環器系:術後出血
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義・機序 | 止血が不十分な部位や、結紮のゆるみ、凝固能の低下から出血する。【胃】膵液漏による血管の破綻もある。消化管内の出血と腹腔内の出血がある[2] |
| 症状・徴候 | 頻脈(血圧より先に出る)、血圧低下、顔色不良、冷汗、尿量減少、ドレーン排液の血性化・増加、Hb低下。【胃】胃管からの血性排液、吐血・下血 |
| 好発時期 | 術後早期(数時間〜翌日)。膵液漏による出血は数日後もある |
| リスク因子 | 抗血栓薬、肝機能低下、血小板減少、高血圧 |
| 治療 | 輸液・輸血、止血薬。消化管内は内視鏡で止血、腹腔内は血管造影で塞栓術、止まらなければ再手術[2] |
| 看護 | 頻脈が血圧より先に出ることが多い。ドレーンの1時間量を前日の同じ時間帯と比べ、急に増えたら離床を止める。胃管や吐血は消化管内、ドレーンの血性は腹腔内、と出どころを分けて報告する |
1)循環器系:深部静脈血栓症(DVT)/肺血栓塞栓症(PE)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義・機序 | 下肢の深部静脈に血栓ができ(DVT)、それが肺動脈に詰まる(PE)。術中の体位と麻酔で筋ポンプが止まり血液が滞る、侵襲で凝固能が上がる、血管の損傷、の3つが重なる[3] |
| 症状・徴候 | DVT:下肢の腫れ・左右差・痛み・発赤。PE:突然の呼吸困難、胸痛、頻呼吸、頻脈、SpO2低下、失神 |
| 好発時期 | 離床前は血栓ができやすく、初回離床時に血栓が飛びやすい[3] |
| リスク因子 | 高齢、肥満、がん、DVTの既往、長時間手術、長期臥床、脱水 |
| 治療 | 抗凝固療法。PEでは酸素投与・循環の管理 |
| 看護 | 弾性ストッキング、間欠的空気圧迫、足首の運動、早期離床、脱水予防。下肢は見て、左右の太さと痛みを比べる。マッサージは血栓を飛ばすのでしない。最初の離床の前にこの所見を取り、胸痛や突然の息苦しさが出たら歩かせない |
がんそのものが血栓のリスク因子なので、胃がん・肺がんの患者はどちらも対象になる。
2)呼吸器系:無気肺・肺炎・肺水腫
| 無気肺 | 肺炎 | 肺水腫 | |
|---|---|---|---|
| 機序 | 分泌物が気管支を詰まらせ、先の肺胞がしぼむ。挿管による線毛運動の低下と分泌物の増加、麻酔による呼吸運動・咳の抑制、痛みが原因[4]。【肺】分離肺換気後の再膨張の遅れ | 無気肺や誤嚥から細菌が増える。痰をうまく出せないと起こる[5] | 肺の毛細血管から水が漏れ、肺胞にたまる。輸液過剰、心機能低下、利尿期の体液の戻り、【肺】血管床の減少 |
| 症状 | 呼吸音の減弱、SpO2低下、頻呼吸、発熱 | 発熱、膿性痰、副雑音(水泡音)、炎症データの上昇 | 呼吸困難、泡沫状の痰、湿った呼吸音、起坐呼吸 |
| 好発時期 | 術後早期(記載要領の評価時期の例では術後2〜3日目)[6] | 無気肺に続いて起こる | 体液が血管内に戻る時期 |
| リスク因子 | 喫煙、肺疾患、肥満、高齢、開胸・上腹部手術[7] | 同左、誤嚥、口腔内の汚れ、反回神経麻痺 | 心疾患(NYHAⅣ度で8倍)[7]、腎機能低下 |
| 治療 | 排痰、気管支鏡による吸引 | 抗菌薬[5] | 利尿薬、輸液の調整、酸素 |
| 看護 | ベッドアップ、深呼吸・呼吸練習器、咳の援助、体位変換、早期離床、疼痛コントロール、口腔ケア | IN-OUT、体重、呼吸音、輸液速度の管理 | |
胃の手術後の肺炎は高齢者に多く、早期離床と術前・術後の呼吸リハビリテーションで予防する[2]。
参考文献
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅴ.2.術後合併症」
- [消]第5章 C-4 胃がん「術後合併症」p.162
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(深部静脈血栓のリスク)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(無気肺・再膨張の遷延のリスクの機序)
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html
- 成人看護学実習Ⅰ 実習記録 記載要領(成人Ⅰ-看護計画)
- 竹内登美子編著『講義から実習へ 高齢者と成人の周手術期看護1』pp.54–58
Ⅴ2 術後合併症(2)消化器系:イレウスの比較
イレウスの分類
| 大分類 | 小分類 | 内容 |
|---|---|---|
| 機械的イレウス(腸閉塞) | 単純性(閉塞性) | 腸がふさがるが、血流障害はない |
| 複雑性(絞扼性) | 腸がふさがり、血流障害を伴う。緊急手術 | |
| 機能的イレウス | 麻痺性 | 腸の動きが止まる。術後、腹膜炎など |
| けいれん性 | 腸管が極端に収縮する |
出典:[1] 表10-9
機械的イレウスの原因は、術後の癒着が最も多い[1]。胃の手術後の腸閉塞も、腹腔内の癒着で起こる[2]。
3)機能的イレウスと機械的イレウスの比較
| 生理的腸管麻痺・麻痺性イレウス(機能的) | 機械的イレウス(腸閉塞) | |
|---|---|---|
| 定義 | 腸がふさがっていないのに動かない。手術後に腸の動きが一時的に止まるのは生理的な反応で、それが長引いたものが麻痺性イレウス | 癒着・ねじれ・内ヘルニアなどで腸が物理的にふさがる。血流障害を伴うもの(絞扼性)は緊急手術になる |
| 病態 | 麻酔、手術操作、オピオイド、交感神経の緊張、低カリウム、腹腔内の炎症[2] | ふさがった口側に腸液とガスがたまり、腸が拡張する。1日約9Lの消化液が吸収されずにたまる[1] |
| 症状 | 腹部膨満、排ガスがない、持続する鈍い痛み、悪心 | 波のある強い腹痛(疝痛)、嘔吐、排ガスの停止 |
| 腸蠕動音 | ほとんど聞こえない[1] | 亢進し、金属音が聞こえる[1] |
| 腹部X線 | 拡張した腸管のガスと、液体とガスの境目が水平に並ぶ鏡面形成(ニボー)[1]。消化管に穴があいていれば横隔膜の下に遊離ガス(free air)が見える[1] | |
| 治療 | 早期離床、緩下剤・腸の動きを促す薬、電解質補正、胃管による減圧。通常は炎症がおさまるとともに改善する[2] | 絶食、胃管・イレウス管による減圧、輸液。絶食で軽快することが多いが、改善しない・絞扼性なら手術[1][2] |
| 好発時期 | 手術の直後から腸は一時的に止まる。授業では蠕動の回復を術後48〜72時間としている[3]。このあいだは生理的な腸管麻痺である。それを超えて動かないもの、腹膜炎で止まるものが麻痺性イレウスである | 原因の多くは癒着である[1]。食事を始めたあとの嘔吐で、吻合部のむくみや輸入脚症候群と並べて考える |
| リスク因子 | 開腹の操作、全身麻酔、オピオイド、交感神経の緊張、低カリウム、腹腔内の炎症 | 開腹の既往、今回の手術でできた癒着。絞扼では血流が止まる |
| 看護 | 腸蠕動音・排ガス・排便・腹部膨満・嘔吐の観察。早期離床は、48〜72時間で戻るはずの蠕動が遅れるのを防ぐ[3] | |
腸蠕動音の聴き方
- 膝を軽く曲げた仰臥位で、腹部の緊張をゆるめてもらう。
- 聴診器の膜面を腹部に軽く当て、音がするまで十分に時間をかけて聴く。
- 音の有無、頻度、高さ(金属音かどうか)を記録する。
- 排ガス・排便、腹部の張り、悪心・嘔吐、胃管の排液と合わせて判断する。
1か所あたり1分を目安に聴き、音がしないときは数分聴く。右上・左上・右下・左下の4か所を順に聴く。腸蠕動音だけで判断せず、排ガスと腹部症状を合わせて見る。
胃の手術で特に見分けること
- 食事開始後の嘔吐:吻合部通過障害(むくみ)、腸閉塞、【B-Ⅱ】輸入脚症候群(胆汁性嘔吐)を考える[2][4]。
- 嘔吐は誤嚥性肺炎につながるので、嘔吐があれば顔を横に向け、呼吸音を確かめる。
参考文献
- [内]第10章「消化管・腹膜疾患」総論(診察、腹部単純X線、消化吸収)、各論「イレウス」表10-9
- [消]第5章 C-4 胃がん「術後合併症」p.162
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(早期離床の効果)
- [内]第10章 各論「j.胃切除後症候群」pp.333–334
Ⅴ2 術後合併症(3)術後感染・術後せん妄
4)術後感染
手術部位感染(SSI)
切開創(表層・深部)と、手術した臓器・体腔(腹腔内膿瘍、膿胸)の感染をまとめて手術部位感染という。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義・機序 | 手術でできた創や、手術した体腔に細菌が入り増えること。表層・深部の創と、腹腔内膿瘍・膿胸を含む |
| 症状・徴候 | 創の発赤・腫脹・熱感・疼痛・排膿、発熱、WBC・CRPの再上昇 |
| 好発時期 | 創の炎症期(約1〜3日)の発赤は、治っている途中でもある(Ⅲ)。それを過ぎて赤み・痛み・膿が強くなるとき、熱とCRPが一度下がってから再び上がるとき |
| リスク因子 | 糖尿病・高血糖、低栄養、喫煙、肥満、ステロイド、長時間手術、消化管を開ける手術 |
| 治療 | 創を開いて膿を出す、洗浄、抗菌薬。腹腔内膿瘍はカテーテルで膿を出す[1] |
| 看護 | 創の観察、清潔操作、血糖管理、栄養、ドレーンの管理 |
カテーテル感染
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義・機序 | 血管内カテーテル、尿道カテーテル、ドレーンの表面や内腔を伝って細菌が入る |
| 症状・徴候 | 刺入部の発赤・腫脹・排膿、発熱、尿の混濁 |
| 好発時期 | 管を置いているあいだ。日が長いほど入りやすい |
| リスク因子 | 管の留置が長い、刺入部の清潔が崩れる、高血糖、低栄養 |
| 治療 | 不要な管を抜く。抗菌薬は医師の指示 |
| 看護 | 刺入部を毎日見る。バッグに触れたあとに刺入部へ触らない。まだ必要かを毎日確かめる |
縫合不全(吻合・縫合の定義)
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 吻合 | 管と管をつなぐこと(胃と十二指腸、食道と空腸など) |
| 縫合 | 切ったところを縫い閉じること(創、十二指腸の断端、気管支の断端など) |
| 縫合不全 | 吻合・縫合の部分がつかず、内容物が漏れること |
【胃】消化液や食べ物が腹腔に漏れ、炎症で痛みと熱が出て、悪化すると腹膜炎になる。経口摂取を中止し、中心静脈栄養とドレナージで治療する[1][2]。
【肺】気管支の縫合部が開くのが気管支断端瘻で、再手術が必要になることがある[3]。
胃では、つなぎ目に内容物が流れ始める経口の開始後に、熱・限局した腹痛・排液の混濁が出やすい(Ⅰ-2)。低栄養と高血糖は創の治りを遅らせる。残胃が小さく B-Ⅰ でつなぐと吻合に緊張がかかり、漏れの条件になる。経口を止め、排液を残し、お腹の所見と一緒に報告する。
5)術後せん妄
手術をきっかけに、急に意識・注意・認知が乱れる状態で、数日のうちに変動しながら起こる。夜に悪くなりやすい。
| 要因 | 内容 |
|---|---|
| 準備因子 | 高齢、認知機能の低下、脳の病気、飲酒 |
| 直接因子 | 手術侵襲、低酸素、電解質異常、感染、薬剤 |
| 促進因子 | 痛み、不眠、ドレーン類による拘束感、環境の変化、視覚・聴覚の低下 |
リスク評価の方法
術前から準備因子を確かめ、術後は尺度で評価する。DST(せん妄スクリーニング・ツール)、CAM(Confusion Assessment Method)、ICUではICDSCなどを使う。授業では、せん妄予防も術後看護計画の例に挙がっている[4]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 手術をきっかけに、急に意識・注意・認知が乱れ、数時間のうちに良くなったり悪くなったりする |
| 好発時期 | 術後数日。夜に悪くなりやすい |
| 治療 | 低酸素、低血糖、痛み、電解質、薬の残りを先に整える。眠らせる薬の選択は医師の指示を見て、原因を残したまま薬だけを足さない |
予防と看護
- 時計・カレンダー・眼鏡・補聴器で、今の日時と場所が分かるようにする。
- 昼は起きて過ごし、夜は眠れる環境をつくる。
- 痛み・低酸素・脱水・電解質異常を早く見つけて整える。
- ドレーンや点滴を視界に入りにくく、触れにくく固定し、自己抜去と転倒を防ぐ。
- 家族に面会と声かけを頼む。
夜に話がかみ合わなくても、せん妄と決める前に三つを否定する。帰室直後で呼びかけに目を開けないのは、麻酔が残っている覚醒遅延である。変動せず、深い眠りのままである。SpO2が低く、呼吸が浅いか、いびきがあれば、意識の乱れは低酸素が先である。酸素を足し、気道を確保してから認知を評価する。冷汗と動悸があり、血糖が低ければ低血糖である。胃の手術のあとに食事が始まっていれば、晩期ダンピングもここへ入る。低酸素と低血糖を残したまま「夜だからせん妄」と書くと、原因の治療が遅れる。せん妄は、それらを整えてもなお、注意が散り、数時間で良くなったり悪くなったりするときに言う。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
- [消]第5章 C-4 胃がん「術後合併症」p.162
- 国立がん研究センター がん情報サービス「肺がん 非小細胞肺がん 治療」 https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/treatment_nsclc.html
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月21日講義(術後看護計画の例、せん妄予防)
第10章学習ノート
Ⅶ Ⅷ 技術と観察
この章で見ること
なぜこの章か。足を先に出し、頭は少しずつ。報告は、今の値ではなく術前との差で言う。 定義は各見出しの直後に置く。イメージは表と流れで見る。具体例は胃と肺を分けた記述にある。課題に直結する書き方は、差と比較で残す。
Ⅶ周手術期に必要な看護技術 1 早期離床の援助
1)離床の目的
| 系統 | 効果 |
|---|---|
| 呼吸 | 換気量の増加、気道クリアランス、酸素化の改善 |
| 循環 | 深部静脈血栓症の予防、心拍出量の増加、末梢循環の改善 |
| 運動 | 運動耐容能の改善、骨格筋力の維持 |
| 消化 | 蠕動運動の回復(術後48〜72時間)の遅れの予防、誤嚥の予防 |
| 精神 | せん妄予防、ストレスの回避、回復への意欲 |
出典:[1]。ADL(バーセルインデックス)の改善と、過度な安静による影響の回避にもつながる
座る・立つと横隔膜が下がり、肺が広がりやすくなる。【胃】上腹部の手術後も、【肺】残った肺の再膨張にも、体を起こすこと自体が呼吸の援助になる。
1)離床の中止基準(授業資料)
- 心拍数120/分以上(あるいは医師の指示)。
- 収縮期血圧150mmHg以上、または安静時より20mmHg以上の上昇(あるいは医師の指示)。
- SpO2 88%未満、20回/分以上の頻呼吸。
- めまい、吐き気、顔色不良、冷汗、冷感。
- 術後合併症(出血、深部静脈血栓など)の徴候。
出典:[1]。受持ち患者の基準は、医師の指示と病棟の手順を優先する
1)離床に伴う心身への負担(特に離床直後)
- 血圧低下:術後の循環血液量の減少に加え、立つと重力で約500〜800mLの血液が腹部・下肢へ移り、静脈還流が減る[2]。
- SpO2低下:麻酔後の呼吸運動・咳の抑制、挿管後の分泌物の増加、痛み、無気肺、【肺】分離肺換気による再膨張の遅れと肺組織の切除[2]。全身麻酔のあと最大換気量は術前の40〜60%に減り、酸素消費は20%増える(Ⅱ-2)。初めての端座位で下がるのは、この幅の中でも起きる。
- 痛みの増強:はじめて体を動かすときに痛みが出る。痛みは呼吸を抑え、離床を遅らせる[2]。
- 肺塞栓:離床前にできた血栓が、離床時に肺や脳の血管へ飛ぶ[3]。
- 転倒・事故抜去:硬膜外麻酔による下肢の力の低下、ドレーン・点滴・尿道カテーテル。
- 心の負担:痛みや管への恐怖、「動いて傷が開かないか」という不安。離床の意味を伝え、できたことを一緒に確かめる。
2)離床の手順と観察
| 段階 | 観察すること(目的) | 準備・注意 |
|---|---|---|
| 離床前(臥位) | バイタルサイン、SpO2、痛み(NRS)、意識、悪心、下肢の腫れ・痛み(血栓)、下肢の感覚と力(硬膜外)、ドレーン排液・刺入部、尿量、前夜の睡眠、本人の意欲。中止基準に当たらないか判断する | 鎮痛薬を効果が出る時間に合わせて使う。点滴・ドレーン・尿道カテーテルの長さと位置を整え、尿バッグやドレーンバッグを動かす段取りを決める。履物、点滴スタンド、車椅子 |
| ベッドアップ(ファーラー位) | 血圧・脈拍、めまい・気分不快(起立性低血圧)、SpO2、呼吸 | 少しずつ頭側を上げる(急に上げると血圧が下がる)。授業事例では30度から始めた[4] |
| 端座位 | 血圧・脈拍、めまい、顔色、冷汗、痛み、SpO2。足底が床につくか | 側臥位を経由し、足を先に下ろしてから上体を起こす。創部を押さえる。しばらく座って体を慣らす |
| 立位 | めまい、ふらつき、膝折れ、顔色、痛み、SpO2 | 看護師は患者の手術していない側・転びやすい側に立つ。ドレーンバッグは刺入部より低く保つ |
| 歩行 | 呼吸困難、胸痛(肺塞栓)、SpO2、ふらつき、歩く距離と速さ | 点滴スタンドを押しながら、ルートが引っ張られないように歩く |
| ベッドに戻る | バイタルサイン、痛み、疲労感、ドレーン排液と刺入部、ルートの位置 | ドレーン・点滴を元の位置に戻し、体位を整える。実施内容と反応を記録・報告する(ISBAR) |
術後の翌朝までは、安静にも意味がある。傷の治癒、心臓への血液の確保、刺激を減らして血圧を安定させること、重力の負荷を減らして静脈を戻すこと、酸素の需要と痛みを減らすことである[1]。早く動かすことと、翌朝まで安静にすることは矛盾しない。傷害期の循環が崩れない範囲で、血栓と無気肺と腸の止まりを防ぐために動かす、という順番である。
動画で問われた理由
足を頭より先に出すのは、上体だけを先に起こすと、減っている循環血液量に重力が一度にかかり、静脈の戻りが落ちて血圧が下がるからである。頭側を少しずつ上げるのも同じで、約500〜800mLが下半身へ移る変化を、一回で起こさない[2]。
足を見るのは、離床前にできた血栓が、立つときに肺へ飛びやすいからである。腫れ、左右差、ふくらはぎの痛みがあれば、その離床は始めない[3]。
尿バッグを点滴スタンドに移すときは、バッグを膀胱より高くしない。胸腔ドレーンは刺入部より低く、屈曲させず、水封が倒れない側に持つ。尿のバッグと胸のバッグを同じ扱いにすると、胸腔へ排液が戻るか、空気の抜け道が止まる。
授業の離床動画では、頭より足を先に上げた理由、少しずつ頭を上げた理由、足を観察した理由、尿バッグを点滴スタンドに移すときの注意(胸腔ドレーンも)が問われた[1]。
観察する順番
着衣を何度も開け閉めしない。命に近いものから、一度の露出で見る。気道と呼吸(いびき、呼吸数、SpO2、胸の左右差)、循環(血圧・脈、昨日との差、尿量、ドレーンの量と色)、意識と痛み、それから刺入部と固定である。数値は今回の値だけでなく、前の値からの変化で言う[2]。
ドレーンバッグや尿バッグに触れたあとは手指を消毒し、刺入部や点滴に触れる前にも消毒する。バッグは汚染、刺入部は清潔、という向きを崩さない。
報告は ISBAR で短くする[1]。自分は誰か、患者は術後何日目のどの術式か、いま心配な所見は何か(前の値との差)、自分はどう判断したか、何をしてほしいか。所見の羅列で終わらせない。
異常が出たときの対応
- その場で座らせるか、ベッドに戻して臥位にする。一人で支えきれないときは無理に歩かせず、人を呼ぶ。
- 血圧・脈拍・SpO2を測り、症状を確かめる。
- 胸痛・呼吸困難が出たら肺塞栓を疑い、動かさずにナースコールで人を呼ぶ。
- 担当看護師に報告し、次の離床の計画を相談する。
参考文献
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(早期離床の効果、離床不可能(中止)の判断、離床の様子)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年7月10日講義(離床時の血圧低下・SpO2低下・疼痛に注意する理由)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(深部静脈血栓のリスク)
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年5月28日講義(中村さんの経過)
Ⅶ2 ドレーン管理
ドレナージの目的
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 治療的 | たまった血液・滲出液・膿・空気を体の外に出す。【肺】胸腔ドレーンで陰圧をかけて肺を膨らませる。【胃】縫合不全のときに漏れた内容物を出す[1] |
| 予防的 | 術後にたまりやすい液を出し、感染や膿瘍を防ぐ。【胃】吻合部や膵臓の近くに置く腹腔ドレーン |
| 情報的 | 排液の量・性状から、出血・縫合不全・膵液漏・乳び胸を早く見つける |
種類:閉鎖式と開放式
| 閉鎖式 | 開放式 | |
|---|---|---|
| しくみ | ドレーンをバッグにつなぎ、外気に触れない回路で排液する | ドレーンの先を体外に出し、ガーゼで排液を受ける |
| 長所 | 逆行性感染が少ない。量と性状を正確に測れる | 管が短く体を動かしやすい |
| 短所 | 回路の屈曲・閉塞、事故抜去に注意がいる | 感染しやすく、量を正確に測りにくい |
| 適応 | 術後の多くのドレーン。胸腔ドレーンは陰圧を保つため閉鎖式 | 排液が少なく、長く置く必要がないとき |
管理の留意点
- 排液バッグは刺入部より低く保ち、逆流を防ぐ。
- 屈曲・閉塞・接続のゆるみ、固定、刺入部の皮膚を確かめる。刺入部の位置と固定位置に印をつけ、抜けかけていないか比べる。
- 排液を捨てるときは手指衛生と手袋、排液口を清潔に扱う。
- 排液の急な増加、血性への変化、混濁、においは、すぐに報告する。
- 胸腔ドレーンはⅠ-6の見方で観察する。
排液の測定方法
- 決まった時刻に、バッグを水平に置いて目盛りを読む。
- 胸腔ドレーンは排液ボトルに時刻と線の印をつけ、前日と比べる。
- 色・性状(漿液性・淡血性・血性・混濁・膿性・白濁)・においを見る。
- 量・性状・時刻を記録し、IN-OUTに入れる。
- 前回からの変化が大きいときは、すぐに報告する。
排液の変化と考えること
| 変化 | 考えること |
|---|---|
| 血性が続く・増える | 術後出血。【胃】膵液漏による血管の破綻 |
| 混濁・膿性 | 【胃】縫合不全、腹腔内膿瘍。【肺】膿胸 |
| 胆汁様・食物残渣 | 【胃】縫合不全 |
| 白く濁る(食事開始後) | 【肺】乳び胸 |
| 急に出なくなる | 閉塞・屈曲。【肺】呼吸性移動も消えていれば閉塞を疑う |
胸腔ドレーンは、量、水面の動き、気泡の三つを同時に言う。水面が呼吸に合わせて動けば、管は通っている。動きが消えて排液も止まれば、閉塞か屈曲で、空気の抜け道が止まっている。気泡が呼吸のたびに出ればエアリークで、血圧と皮下気腫が静かなら範囲を印して見る。気泡が増え、皮下気腫が広がり、血圧が下がれば、空気が胸に溜まって肺を押している。量だけ見て「減ったからよくなった」と言うと、管が詰まって出なくなった状態を回復と間違える。
参考文献
- [消]第5章 C-4 胃がん「術後合併症」p.162
- 成人看護援助論Ⅲ 2026年7月10日講義「胸腔ドレーンの目的」、5月28日講義「胸腔ドレーンの観察」
Ⅶ3 術後1日目の全身清拭・創部の洗浄指導・簡易血糖測定
術後1日目の全身清拭(臥床での清拭)
- 事前に、バイタルサイン、痛み、ドレーン・点滴・カテーテルの位置、創部を確かめる。必要なら鎮痛薬を先に使う。
- 室温を整え、カーテンで仕切る。物品(湯・タオル・寝衣・防水シーツ)を準備する。
- 点滴・ドレーンがある側を把握し、ルートを引っ張らない順に進める。寝衣は点滴のない側から脱ぎ、点滴のある側から着る。
- 顔→上肢→胸腹部→下肢→背部・殿部→陰部の順に拭く。創部とドレーン刺入部のドレッシングは濡らさない。
- 側臥位にするときは、ドレーンが体の下敷きにならない向きにし、創部を押さえながら体の向きを変える。
- 背部を拭くときに、皮膚(褥瘡・テープかぶれ)を観察する。
- 終わったら、ルートの位置とドレーン排液、バイタルサイン、疲労感を確かめる。
胃と肺での配慮
- 【胃】経鼻胃管の固定テープの貼りかえと鼻の皮膚の観察。腹部は膝を曲げて緊張をゆるめてから拭く。
- 【肺】胸腔ドレーンのバッグを倒さない、刺入部より高くしない。手術した側を下にする時間は短くする。
創部の洗浄指導(退院指導で必須)
- シャワーの許可が出たら、石けんをよく泡立て、創部を手のひらでやさしく洗い、泡を十分に流す。こすらない。
- 清潔なタオルで押さえるように水気を取る。
- 赤み、腫れ、熱感、痛みの増強、滲出液、発熱があれば、病院に連絡する。
- 湯船に入れる時期は、医師の許可に従う。
指導の進め方
- 入院中のシャワーのときに一緒に行い、実際の手順を見てもらう。
- 次は本人に行ってもらい、見守って足りないところを伝える。
- 受診が必要な症状を、本人と家族に言ってもらい確かめる。
- 創が見えにくい場所(背中の開胸創など)は、鏡や家族の協力を考える。
簡易血糖測定
- 指示(測定時刻、インスリンの指示)を確かめ、本人確認をする。
- 物品:血糖測定器、センサー、穿刺器具、消毒綿、手袋、廃棄容器。
- 手指衛生、手袋。穿刺する指(指先の側面)を消毒し、乾かす。
- 穿刺し、必要量の血液をセンサーに付ける。
- 穿刺部を消毒綿で押さえて止血する。針はすぐに廃棄容器へ入れる(針刺し事故防止)。
- 結果を記録し、指示と照らして報告・対応する。低血糖症状(冷汗、動悸、ふるえ、意識の変化)も合わせて見る。
消毒液が乾かないうちに穿刺すると、血液に混ざって値が変わることがある。指先の中央は痛みが強いので側面を使う。
術後は侵襲で血糖が上がる(外科的糖尿病)。授業では術後2〜3日に血糖が上がるとしている。この高血糖に糖を足すと、感染と創の治りが悪くなる。反対に、胃を切ったあとの晩期ダンピングは食後2〜3時間の低血糖で、こちらは糖が要る(Ⅰ-2)[1]。冷汗と動悸だけではどちらとも言えない。食後どれくらいか、いまの血糖の数字か、で分けてから糖かインスリンかを決める。数字を見ずに症状だけで糖を入れると、傷害期の高血糖をさらに上げる。
参考文献
- 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん 療養」 https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/follow_up.html
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅶ.周手術期に必要な看護技術」
Ⅷ手術を受ける患者の理解
1 手術を受ける患者・家族の心理(がん告知後の状況など)
がんの告知を受けたあと、患者は衝撃、否認、怒り、抑うつを行き来しながら、少しずつ現実を受け止めていく。
手術を前にして、がんが取りきれるか、痛みはどうか、仕事や家庭はどうなるか、体の形や機能がどう変わるか、という不安が重なる。家族も同じように揺れ、患者を支える役割と自分の不安の両方を抱える。
看護では、患者の話を否定せずに聴き、不安の中身を具体的にし、分からないことを医師につなぐ。術前オリエンテーションで術後の経過をイメージできると、不安がやわらぐ。
全人的苦痛と緩和ケア
がん患者は、身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルな苦痛を抱えていて、全人的苦痛となっている[1]。
がんと診断されたときから、患者と家族が身体的・精神的な苦痛に対する心のケアを含めた全人的な緩和ケアを受けられるよう、緩和ケアの提供体制を充実させる必要がある[1]。緩和ケアは終末期だけのものではなく、手術を受ける時期にも関係する。
| 苦痛 | 手術を受ける患者での例 |
|---|---|
| 身体的 | 創の痛み、息切れ、食べられないこと |
| 精神的 | 再発の不安、手術への恐怖、抑うつ |
| 社会的 | 仕事を休むこと、費用、家族の中の役割 |
| スピリチュアル | なぜ自分が、これからどう生きるか |
予期的悲嘆とボディイメージの混乱への援助
予期的悲嘆
実際に失う前から、失うことを思って悲しむこと。【胃】胃を失うこと、今までどおり食べられなくなること。【肺】肺を失うこと、息切れ。
悲しみを表してよいと伝え、気持ちを聴く。悲しむことは、変化を受け入れていくための自然な過程である。
ボディイメージの混乱
体の形や機能の変化を受け入れられない状態。【胃】体重減少、食事の変化、ダンピング症候群。【肺】創・ドレーンの跡、胸の痛み・しびれ、息切れ。
変化を具体的に説明し、対処法(食べ方の工夫、呼吸法)を一緒に身につけ、できることが増えていく実感を支える。
参考文献
- [内]第9章 呼吸器疾患「緩和ケア」「癌の告知」p.280
Ⅷ2 インフォームド・コンセントと意思決定支援
定義と基本理念
インフォームド・コンセントは、患者が病状と、治療の目的・方法・利益・危険・ほかの選択肢・受けない場合の見通しについて十分な説明を受け、理解したうえで、自分の意思で治療に同意(または拒否)することである。
基本にあるのは、患者の自己決定の尊重である。
がんの告知と知る権利
最近は、患者の「知る権利」が尊重され、本人に病気の内容を知らせるようになってきた。インフォームド・コンセントを得て、精神的にサポートしながら病態を理解してもらうことが大切である[1]。
知りたくないという気持ちも尊重する。どこまで知りたいか、誰と一緒に聞きたいかを確かめてから説明の場を整える。
胃がん・肺がんの手術で説明される主な内容
- 病期と、手術以外の選択肢(内視鏡治療、放射線療法、薬物療法)。
- 術式と切除範囲、アプローチ(開腹・腹腔鏡・開胸・胸腔鏡・ロボット支援)、術中に方法が変わる可能性。
- 術後合併症(Ⅰ-2・Ⅰ-3)と、術後の生活の変化(胃切除後症候群、息切れ・肋間神経の痛み)。
- 術後補助化学療法の可能性と、病理の結果で病期が変わる可能性。
意思決定支援における看護の役割
- 説明の場に同席し、患者・家族の反応を見る。
- 説明後に、理解できたことと分からないことを確かめ、言葉を補う。専門用語を言い換える。
- 患者の価値観(何を大切にしたいか、仕事、家族、食べること)を聴き、選択に反映できるよう医師と共有する。
- 迷い・不安を表してよいと伝え、決めるまでの時間を支える。
- 家族の意向と患者の意思がずれるときは、患者の意思を中心に、話し合いの場をつくる。
理解の確認は「分かりましたか」では取れない。患者に、自分の言葉で術式、起こりうる合併症を一つ、食事か呼吸の変え方を一つ、言ってもらう。言えない部分が、翌日もう一度説明する場所である。不安が強いと痛みの閾値は下がる(Ⅴ)。痛みの訴えを薬だけで受け取ると、分かっていないことの不安を見落とす。
術前の看護では、意思決定支援、リスク評価と術前準備、多職種連携を行う[2]。
参考文献
- [内]第9章 呼吸器疾患「癌の告知」p.280
- 術前の学習の視点(意思決定支援、リスク評価、多職種連携)
- 成人看護学実習Ⅰ 事前課題「Ⅷ.手術を受ける患者の理解」